
中小企業の退職金事情とは|経営者向けの共済制度についても解説
退職金制度があるかないか、金額がいくらくらいかは、就活生や転職希望者にとって企業選択の重要な要因です。この記事では中小企業の退職金事情について、平均相場や制度を含めて分りやすく解説します。
中小企業の退職金事情を解説
中小企業で退職金制度を設けている会社がどれくらいあり、金額の相場は大企業位と比べてどれくらいなのでしょうか?
中小企業では退職金がもらえないこともある?
平成30年に東京都が従業員10人~299人の中小企業1,006社について調査したところ、退職金制度があると回答した企業が71.3%で、ないと回答した企業が24.2%でした。
(「中小企業の賃金・退職金事情|東京都産業労働局(平成30年版)」)
また、制度のある企業の 75.9%が「退職一時金のみ」と回答し、20.6%が「退職一時金と退職年金の併用」と回答しています。
中小企業の約3割には退職金制度がなく、制度がある会社も4分の3が「退職一時金」のみという結果になっています。
中小企業の退職金は少ない?
大卒社員の定年退職(勤続35~40年)による退職金を企業規模別にみると次のようになります。
- 中小企業 1,203万円(2018年東京都産業局調べ)
- 大企業 2,256万円(2018年経団連調べ)
- 全企業 1,997万円(2017年厚生労働省調べ)
これを見ると、中小企業の定年退職時の退職金は、大企業より約1,000万円少なく、全企業平均より約800万円少なくなっています。
また、企業規模に関わらず退職金の額は年々少なくなっていて、2008年から2013年の5年間で大企業で500万円、中小企業で300万円~400万円も支給額が減っています。
(厚生労働省「就労条件総合調査」)
全体的に退職金の額が減っている理由としては、終身雇用制の崩壊、年功序列的な賃金体系の見直し、退職金の評価基準の変化(行政気を考慮したポイント制の導入)などが考えられます。
【学歴別】中小企業の退職金の平均相場
中小企業の退職金の相場を、「中小企業の賃金・退職金事情|東京都産業労働局(平成30年版)」から見ていきましょう。
【高校卒】中小企業の退職金の平均相場
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
10年 | 89万円 | 123万円 |
20年 | 280万円 | 344万円 |
30年 | 578万円 | 677万円 |
定年 | ー | 1,126万円 |
高校卒で60歳定年まで働くと勤続年数が42年になるので、退職金は勤続30年の自己都合退職の約2倍になっています。
自己都合と会社都合の退職金の差は、勤続年数が増えるほど小さくなっています。
自己都合の退職金は、10年目は会社都合の約70%、20年目は約80%、30年目は約85%となっています。
【高専・短大卒】中小企業の退職金の平均相場
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
10年 | 106万円 | 137万円 |
20年 | 322万円 | 377万円 |
30年 | 671万円 | 749万円 |
定年 | ー | 1,106万円 |
高専・短大卒の退職金は、中途退職では高校卒より15%ほど高くなっています。
しかし、定年退職では高校卒とほぼ同じで、むしろ若干少なくなっています。
【大卒】中小企業の退職金の平均相場
勤続年数 | 自己都合 | 会社都合 |
10年 | 122万円 | 157万円 |
20年 | 373万円 | 436万円 |
30年 | 785万円 | 852万円 |
定年 | ー | 1,203万円 |
大卒の退職金は、中途退職では高校卒より30~35%、短大卒より約20%高くなっています。
しかし、定年退職では大きな差がなく金額で100万円ほどの差があるだけです。
中小企業の経営者向けの退職金共済制度
従業員の退職金を社内でプールしておくのでは、景気の動向や会社の業績によっては規定の金額を支払えない事態が起こりえます。
そのようなリスクを回避するための制度が退職金共済制度です。
中小企業退職金共済制度とは
中小企業退職金共済制度(中退共)とは、事業主が毎月掛け金を国の共済機構に積み立てて、従業員が退職したときに積立金を退職金として支払う制度です。
退職金は中退共から直接従業員に支払われます。
昭和34年に中小企業退職金共済法に基づいて設立されてから、加入している企業は令和元年現在で371,286企業、従業員数では3,517,421人におよび、運用金は約5兆円になります。
中小企業退職金共済制度の毎月の掛金
事業主が共済機構に積み立てる毎月の掛金は次の16種類で、事業主はこの中から従業員ごとに任意に選択できます。
5,000円 、6,000円、7,000円、8,000円
9,000円、10,000円、12,000円、14,000円
16,000円、18,000円、20,000円、22,000円
24,000円、26,000円、28,000円、30,000円
パートタイマーの場合は上記のほかに、2,000円、3,000円、4,000円の月額を選択することができます。
【Q&A】中小企業の退職金でよくある質問
退職金に関してよくある、受取時期と税金についての疑問にお答えします。
Q.退職金を受け取るタイミングはいつ?
一般的に、退職金は退職した日から1~2ヶ月後に振り込まれます。
退職金の支払い日は就業規則などに記されているので確認しておきましょう。
期日を過ぎても支払われないときは、まず会社に問いを合わせてみましょう。
それでも支払わない場合は、労働基準監督署や弁護士に相談します。
退職金の請求権は5年で時効になるので、その前に請求する必要があります。
Q.退職金制度と退職金共済はどちらが多くもらえますか?
退職金共済の正式名称は中小企業退職金共済制度です。文字通り、独自で運用するのが厳しい中小企業のためにあります。その中で、退職金制度がある大手企業に勤めている人と中小企業退職金共済制度を選択している企業に勤めている人では退職金は大きく変わるのか疑問に思う方もいます。ここでJobQに寄せられた口コミを紹介します。
会社の人事や事務や管理職の方がいたらお願いします。求人票に、退職金制度(ここではA)と退職金共済(ここではB)があると思うんですが、会社によってはAありBなし。AなしBあり。というパターンのところがあるみたいなのですが、掛け金にもよるとは思うのですが、一般的にどちらの方が金額的に高い低いとかありますか?理想はどちらもありの方が良いんですけどね。
A.掛け金や退職金額は各社が決定するものですし状況により変更されるものですので、一概にどちらの方式の方が高いというのは言えません。ただ、共済は中小企業向けですので..続きを見る
以上から、一般的には大手企業の退職金制度が多くもらえるそうです。実際に、2018年東京都産業局と2018年経団連調べでもそのような結果が出ているので、退職金制度の方が多い金額がもらえると捉えて妥当でしょう。
Q.退職金にかかる税金と控除額の計算方法は?
退職金にも税金がかかりますが、控除額のが大きいので特別に高額の退職金を除いて、実際の税額は大きくはなりません。
退職金には次表のような「退職所得控除」があり、それを超えた分にだけ税金がかかります。
勤続20年以下 | 40万円×勤続年数 |
勤続20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例えば、勤続20年の場合の控除額は、40万円×20年=800万円で、退職金の内800万円は非課税です。
退職金が1,000万円なら控除の800万円を引いた200万円に所定の税率で税金が課せられます。
勤続40年の場合は、800万円+70万円×(40年-20年)=2,200万円で、退職金の内2,200万円は非課税です。
退職金の相場から見ると非課税枠はとても大きくなっています。
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▶︎【退職日の決め方】ボーナスや社会保険への影響を解説
まとめ
中小企業の約7割の会社に退職金制度があり、その4分の3が退職一時金として支払っています。
定年退職の退職金では大企業より約1,000万円少なくなっています。
会社の経営状況に左右されずに退職金を支払うために「中小企業退職金共済制度」を利用する事業者が増えています。
あらゆる疑問を匿名で質問できます
約90%の質問に回答が寄せられています。