
【就活生必見】重工業の業界研究|事業構造・将来性・働き方など徹底解説
最近、就活生の人気を集めているのが重工業です。1990年代後半あたりからトップ10の常連となっており、そして内定者のほとんどが有名私大・旧帝大の学生が集まっており、難易度も高いです。したがって、大切なことは、重工業についてどれだけ正しく理解し、その上で自分の強みや頑張ったことを、重工業でどう活かせるかを具体的にイメージし面接官に伝えることが重要です。この記事では重工業の業界研究を有価証券報告書やシンクタンクのレポートをもとに、詳しくわかりやすく説明しております。この記事を読めば、重工業の業界研究は完了するでしょう。ぜひ最後まで読んで、重工業の就活に挑みましょう。
重工業業界とは
この記事の文字数は11534文字です。この記事は約28分で読むことができます。
この章では重工業業界
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
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業界構造
航空部品製造・販売
重工業企業は航空機の部品の製造及び販売を担っています。航空機産業における重工業の立ち位置としては機体そのものではなく、機体の一部や部品をメインに製造している点です。例えば、川崎重工業はボーイング787や民間航空機の国際開発・生産プロジェクトにも傘下していますが、こちらも機体そのものというよりは機体の部品の供給を担っています。機体本体の製造を行っていない背景には歴史的経緯があります。
三菱重工業・川崎重工業などの重工業メーカーは戦前は軍事用の航空機製造を担っていました。例えば、三菱重工業の零式艦上戦闘機に代表されるように優秀な航空機を輩出し、太平洋戦争時には日本の航空技術は世界最高水準に達しました。しかし、敗戦と同時に連合軍によって航空機製造及び研究が禁止され、国内の航空機メーカーが解体されたことで多くの技術者が自動車業界や鉄道業界に流出しました。
その後、航空技術に関する制限は解除されたものの日本では航空機産業は欧米の後塵を拝しており、機体本体の製造へ参画が難しいのが現状です。現在ではボーイングなどを含めて、航空機本体の製造は海外メーカーの独占状態にあります。
一方で川崎重工業に代表されるヘリコプターや三菱重工のMitsubishi Space Jetや本田技研工業のホンダジェットなど航空機本体の製造に参画する動きがここ数年で見られ始めています。
防衛装備製造・販売
重工業メーカーは日本の国防を防衛装備の製造・販売の面から支えています。上述のように戦前及び戦中は軍需産業の要として主に航空機の製造を担い、軍事技術の発展に貢献してきました。現在においても戦闘機や航空機、潜水艦、兵器製造など軍事製品を製造し、防衛省と取引をしています。
最近では川崎重工業のP-1固定翼哨戒機及びC-2輸送機などが有名です。2020年時点で日本の国防費は世界第5位であり、日本は世界的にも国防予算が大きい国です。防衛産業は防衛省からの安定した受注が見込めるため、各社は安定した自衛隊需要の恩恵を受けています。
一方で、冷戦の終結によって世界的な軍縮の中で防衛産業だけではなく、民需拡大を模索する企業も増えています。川崎重工業の大型ジェット機C2及びP1、三菱重工業のMItsubishi Space Jetや本田技研工業のホンダジェットなどはその象徴です。
鉄道車両製造・販売
重工業メーカーは社会インフラである鉄道業界においても鉄道車両の製造及び販売という形で社会に貢献しています。川崎重工業が1906年に鉄道車両の製造を開始し、国産第一号の蒸気機関車を製造したことに始まり、1910年には三菱重工業が鉄道院向けの客車や土佐電気鉄道向け市街電車を受注するなど鉄道車両製造の歴史は長いです。
現在では専ら民間の鉄道車両の製造及び販売を担い、鉄道車両の安定的な供給を担っている他、海外への鉄道車両の輸出も手掛けています。
ロボット製造・販売
重工業メーカーは産業用ロボットの製造及び販売を担っています。1969年に川崎重工業が日本で初めて産業用ロボットの製造を開始したのを契機として重工業メーカーが産業用ロボット事業に参画しました。
主に自動車や半導体などをはじめとする様々な業界向けに産業用ロボットを安定的に供給しており、各企業の工場で溶接や組立、塗装などを担っています。今後、少子高齢化・人口減少社会の到来によって労働力人口が減少するなかで自動化・省力化を可能にする産業用ロボットの需要は高まると見られています。
発電所建設
重工業メーカーは発電所の建設にも携わっています。火力発電や原子力発電機器などの製造・販売を担い、日本の産業及び人々の生活を電力供給の面から支えている他、風力発電など再生可能エネルギー機器の製造及び販売を担い、新たなエネルギー源の開拓にも貢献しています。これらの発電所の建設は国内のみならず、欧州やアジアなど海外へも輸出されています。
市場規模・将来性
市場規模
業界動向リサーチによれば、2019-2020年の重工業業界の市場規模は約8兆円となっています。重工業業界は2010年代初頭までは堅調に推移していましたが、その後低迷期に入りました。
2010年代後半より円安や国内のインフラ需要の回復によって持ち直したものの国内のインフラ需要は今後縮小すると見られており、各社とも海外事業の強化によってグローバル展開を進める必要性に迫られています。
重工業業界は様々な事業を営んでいますので、さらに細分化して市場規模について見ていきましょう。
エンジニアリング協会が発表している「エンジニアリング産業の実態と動向」によると、国内エンジニアリング業界の市場規模(主要エンジニアリング企業の売上高の合計)は16兆7,746億円となっています。
また、業界動向リサーチによれば、2019-2020年の造船重機業界の市場規模(主要対象企業9社の売上高の合計)は9兆3,189億円となっており、同じく業界動向リサーチによれば、2019年-2020年の機械業界の市場規模(主要対象企業228社の売上高の合計)は31兆1,915億円となっています。
航空宇宙業界の市場規模を見てみると世界の民間航空機市場は年率5%ペースで拡大しており、今後20年間で約3万機、約4兆ドルの市場規模となる見通しです。特に人口増加及び経済成長の著しいアジア太平洋地域が牽引役となって市場が拡大していくと見られています。
一方で日本の航空機産業の生産額は約1,8兆円とアメリカの1/10程度、イギリスやフランス、ドイツなど他の先進諸国の1/3程度と欧米と比較すると小規模に留まっています。今後、拡大するアジア太平洋地域の需要をうまく取り込めるかが市場拡大のカギとなりそうです。
最後に防衛産業について見てみると、日本の防衛産業の市場規模は約1.6兆円となっています。メインは自衛隊の艦艇や航空機の製造及び修繕費ですが、最近ではアメリカ政府と直接契約して調達する有償軍事援助が増大しており、2019年度の予算額は前年度比70.9%増の7,013億円と急増しました。
防衛産業は三菱重工業や川崎重工業など大手企業の売上に占める割合は10%程度であり、防衛省と直接契約を結ぶ企業の下請け企業まで波及効果があり、戦闘機と戦車はそれぞれ約1000社、護衛艦は約7000社といわれています。
将来性
重工業メーカーの将来性について考察するために航空宇宙・造船・防衛産業などの各事業の将来性について検討してみましょう。
まず航空機産業ですが、世界的に航空宇宙市場は拡大する見込みであり、。特に人口増加及び経済成長の著しいアジア太平洋地域が牽引役となって市場が拡大していくと見られています。しかし、欧米と比べて規模の小さい日本の航空機産業が入り込む余地があるのかは不透明であり、将来性については決して明るいとは言えません。
続いて、造船産業について見てみましょう。造船産業は現在、造船供給能力過剰(Excess Capacity)という問題を抱えています。これは船舶の需要が低迷する以前、すなわちリーマンショック以前の新規の船舶の大量受注によって引き起こされており、国土交通省の海事局が2016年に発表した「船舶市場の現状」によれば、2016年の世界の船舶の需要は約6,500万トンですが、供給能力は10,000万トンを超えています。
この供給能力過剰問題の解決には、経営難に陥った造船所が市場から退出することが必要となりますが、韓国の政府支援等により、経営難に陥った造船所が生き延び、供給能力過剰問題は改善されていないのが現状です。最近では為替が円安に転じたほか、各社とも受注を抑制する姿勢を打ち出しているため、リーマンショック直後の低迷期は脱却したものの以前とした世界的な供給能力過剰問題の解決には至っていません。
また、最近では各国とも環境規制を強めている他、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的なエネルギー需要や海上輸送需要が低迷することが危惧されています。
最後に防衛産業について見てみましょう。日本の防衛費は5兆2620億円と世界第9位の水準となっていますが、防衛費の拡大の一方で、増加分の多くはアメリカ製の防衛装備の購入に充当され、国内重工業メーカーへの発注は限定されています。
また、日本の防衛装備品の価格は原価に一定の利益を上乗せする「原価計算方式」であり、比率は5%程度と、民間事業の利益率としては高いとは言えません。実際にコマツが陸上自衛隊向けに開発・生産してきた車両の一部の新規開発を中止を発表するなど低い採算性は問題となっています。
また、自衛隊向けという限られた需要しかないため原価も高くなっています。政府は防衛装備の輸出も検討していますが、技術開発競争では、巨額の予算を背景にしたアメリカ勢に追随するのは難しく、ただでさえ小粒の日本勢が競争力を発揮できる分野は乏しいのが現状です。
このように重工業メーカーの主要事業である航空宇宙・造船・防衛産業などの各事業において将来性は厳しいと言わざるを得ません。
業界の分類
重工業メーカー
一般的に日本の重工業メーカーを指すときには三菱重工業、IHI、川崎重工業が挙げられます。この3社は造船、航空機、宇宙、発電所、防衛装備など幅広い事業領域を持っていることが特徴です。
造船
造船に特化した国内メーカーです。国内の造船産業は三井造船、日立造船、三菱重工業の3社に集約されつつあり、寡占化が進んでいます。
防衛装備メーカー
重工業産業のなかでも防衛装備の受注が大きい企業は住友重機械工業、コマツ、三菱重工業、川崎重工業などです。
最新のトレンド
防衛装備輸出三原則が施行されるも競争力強化に課題
日本の防衛産業は陸上自衛隊及び海上自衛隊・航空自衛隊の活動に必要な装備品の製造を担っており、我が国の安全保障にとって必要不可欠な技術的基盤となっています。防衛産業に携わる企業は防衛産業は三菱重工業や川崎重工業など大手企業のみならず、防衛省と直接契約を結ぶ企業の下請け企業まで波及効果があり、戦闘機と戦車はそれぞれ約1000社、護衛艦は約7000社といわれています。
一方で、各社の売上に占める防衛関連の売上の比率(防衛需要依存度)は平均して3%程度と多くの企業で防衛事業が主要な事業とはなっていません。また、防衛費の多くがアメリカの軍需企業向けに発注されており、国内企業には少量多種生産を強いており、高い調達単価や整備経費が重荷となっており、各社とも防衛産業への関わりは積極的とは言えません。コマツが陸上自衛隊向けに開発・生産してきた車両の一部の新規開発を中止を発表するなど一部企業が防衛事業から撤退するなどの問題も生じています。
2014年4月に日本政府が「防衛装備移転三原則」を閣議決定するまで、日本の防衛企業は防衛装備品の輸出は禁止され、市場が国内に限定されてきたこともあり、国際共同開発や生産への参加も難しく、世界の先端技術の習得もままならない状況が長らく続いてきました。「防衛装備移転三原則」によって制限は緩和されたものの日本の防衛産業は専ら自衛隊向けに装備品の生産などを行うことを前提として構築されてきたために、国際競争力の向上が課題となっています。
また、国力に比べて少ない防衛予算も問題になっています。ストックホルム国際平和研究所によると、2019年の世界の防衛支出は1兆9170億ドル(約200兆円)で、アメリカがその38%を占める。アメリカに次ぐ中国は13.6%を占めます。日本は防衛費が対GDP比で0.9%と他の先進国・地域比べても、対GDP比で防衛費の支出がかなり少ない状態が続いており、この状況が続けば、国内企業の防衛産業からのさらなる撤退を招き、結果として日本の防衛力が著しく低下する可能性があります。
鉄道車両製造で台頭する中国
鉄道車両の製造では中国が先行しています。2015年に中国国営の二大鉄道車両メーカー、中国南車と中国北車が経営統合して、中国中車(CRRC)が誕生し、世界第一位の鉄道車両メーカーが誕生しました。中国中車(CRRC)の売上の90%以上は中国国内に向けたものですが、今後は低価格を武器にグローバル展開すると見られています。
これに対して、2017年9月、独シーメンスと仏アルストムという、欧州の鉄道車両業界の第1位と第2位が経営統合を発表しました。世界の鉄道車両製造競争では急成長する新興国市場を主戦場に、技術力を武器にする欧米メーカーと、低価格をセールスポイントにする新興国メーカーが競争する構図となっています。
このような状況の中で欧米及び中国の後塵を拝しているのが日本の鉄道車両製造メーカーです。日本の国内向けの鉄道車両製造は2006年の2198両をピークに生産台数が減少し、ここ数年は横ばいの状態が続いています。人口減少が進んでいる国内は鉄道車両の需要減少が見込まれているため、アジアの新興国を中心としたグローバル展開が求められます。
しかし、海外では上述のように2015年に中国南車と中国北車が合併して設立した世界最大手の中国中車や、18年末までに鉄道事業を統合すると発表した世界2位の独・シーメンスと3位の仏・アルストムなど、競合が立ちはだかっています。
日本企業は技術では優位ですが、コストではやはり規模の大きな海外企業に分があります。
鉄道の海外展開は国家プロジェクトとして政府も力を入れており、日本勢が海外案件を勝ち取れるかどうかは外交力も関わってきます。