
【就活生必見】防衛業界の業界研究|事業構造・将来性・働き方など徹底解説
ものづくりから日本の安全保障を支えているのが防衛業界です。社会貢献度の高さに惹かれて、防衛事業を行っている企業を志望する学生は文理を問わず多くいます。防衛省を志望する学生が併願することもあるので、志望する学生のレベルは都内の有名私立大学や旧帝国大学など大変高いです。激しい競争を勝ち抜いて内定を獲得するために防衛業界のビジネスモデルや防衛省・自衛隊との関係性、業界のトレンドを理解した上で自分の強みやスキルを面接官にアピールすることが重要です。この記事では防衛産業各社の有価証券報告書や公的機関のレポート、報道内容を基に防衛業界の業界研究を行っています。ぜひ最後まで読んで、防衛業界の就活対策を行いましょう。
防衛業界とは
この章では防衛業界
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
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業界構造
防衛装備の製造・販売
防衛装備とは自衛隊が使用する航空機、艦船、戦闘車両、、爆発物の部品・付属品、指揮装置の部品・付属品、銃、砲、爆発物投射機、戦闘車両、銃弾、砲弾の部品・付属品などを指します。
防衛装備は防衛装備庁で平和貢献・国際協力の観点並びに諸外国との安全保障・防衛協力の強化、効率的・効果的な自衛隊用装備品の取得及び日本の防衛生産・技術基盤の維持・強化といった観点から文官、自衛官を配置し、プロジェクトマネージャーの下、要求される性能が決定されます。
防衛装備メーカーは防衛装備庁の要求に対応する形で防衛装備の開発・製造を行います。
防衛装備が一般の消費財と異なる点は使い捨てではなく、防衛の最前線で長期間使用されることを前提としている点です。
したがって、メーカーが独自で開発・製造を行って、カタログに並べて、顧客である防衛装備庁がカタログから商品を選ぶという形のビジネスではありません。
したがって、防衛装備庁より出される防衛装備のニーズに一つ一つ丁寧に対応するビジネスであり、厳しさを増す安全保障環境や防衛装備品のハイテク化を考慮すると要求水準を満たすことは決して簡単なことではありません。
防衛装備庁の要求水準を満たすために防衛装備を開発して、防衛省監督の下に装備のテストを繰り返し、最終的には自衛隊に納品・設置されます。
出典:防衛協会会報第163号(5.7.1)掲載 防衛装備行政の“司令塔”防衛装備庁
防衛装備のメンテナンス
また、防衛装備は防衛装備庁に製品として納品したらビジネスが完結するわけではなく、その後もメンテナンスやシステムの更新等の長期的な関係が続きます。
消費財の様に流行にも左右されることはほとんどなく、自前の技術や経験、ノウハウを蓄積していって自衛隊にソリューションを提供し、その後も長い関係を構築してメンテナンスサービスでも収益を稼いでいくという特徴があります。
防衛装備は戦場での定期的なメンテナンスを必要としますので、メンテナンスのメインはセルフメンテナンスです。
これは防衛装備メーカーが作成したマニュアルに従って自衛官が自らメンテナンスをするという方法です。
一方で、より複雑な防衛装備の不具合や故障に対応するために防衛装備メーカーが自衛隊に専門家を派遣して対応する方法や専門家が自衛隊に常駐するなどの契約の方法が取られています。
これらのメンテナンスは有償で行われ、そのサービスが収益化しています。
安定した収益
防衛装備を製造しているメーカーの多くは戦前及び戦中は軍需産業の要として主に航空機の製造を担い、軍事技術の発展に貢献してきました。
現在においても戦闘機や航空機、潜水艦、兵器製造など軍事製品を製造し、防衛省と取引をしています。
最近では川崎重工業のP-1固定翼哨戒機及びC-2輸送機などが有名です。
2020年時点で日本の国防費は世界第5位であり、日本は世界的にも国防予算が大きい国です。
防衛産業は防衛省からの安定した受注が見込めるため、各社は安定した自衛隊需要の恩恵を受けています。
一方で、冷戦の終結によって世界的な軍縮の中で防衛産業だけではなく、民需拡大を模索する企業も増えています。
川崎重工業の大型ジェット機C2及びP1、三菱重工業のMItsubishi Space Jetや本田技研工業のホンダジェットなどはその象徴です。
防衛装備品の適切な開発、生産、維持整備は、日本の安全保障上、極めて重要であるという認識の下に日本では防衛装備庁が防衛装備品の構想から研究・開発、量産取得、運用・維持整備、廃棄といったライフサイクルの各段階を通じたプロジェクト管理を行い、防衛装備品の効率的な取得を行っています。
したがって、防衛装備を製造するメーカーの顧客は政府であり、防衛省であり、防衛装備庁なのです。
政府機関である防衛装備庁が顧客ですので、顧客の財務基盤は盤石であり、収益が非常に安定しているというメリットがあります。
防衛装備の輸出
2014年4月に日本政府が「防衛装備移転三原則」を閣議決定するまで、日本では武器輸出三原則によって事実上、防衛装備の輸出が不可能な状態にありました。
しかし、輸出の制限によって、量産効果が得られず、防衛装備の単価が高価になり、日本の防衛費を圧迫していました。
また、防衛装備のハイテク化によって研究開発費・生産費・維持費などといった諸コストが膨らみやすい現代の兵器開発においてアメリカのような軍事大国であっても国際共同開発が主流となっており、日本の防衛産業は世界の先端技術の習得もままならない状況が長らく続いてきました。
「防衛装備移転三原則」によって制限は緩和されたものの日本の防衛産業は専ら自衛隊向けに装備品の生産などを行うことを前提として構築されてきたために、国際競争力の向上が課題となっていました。
しかし、2020年には三菱電機とフィリピン政府の間で日本の防空レーダーの輸出に関する契約が締結され、今後の輸出拡大が期待されています。
今回輸出される防空レーダーは、自衛隊が使用している固定式防空レーダー「FPS-3」と移動式レーダー「TPS-P14」を改良したものです。
開発から30年程経過しており、自衛隊内ではより新しい装備も配備されていますので、最新ではありませんが、今でも十分な性能を持っている装備です。
市場規模・将来性
市場規模
日経テレコンによれば、日本の防衛産業市場規模は約1兆6,000億円となっています。
自衛隊の艦艇や航空機などの修繕費が予算支出の中心です。
防衛装備品の中で存在感を増しているのが米国製であり、米政府から直接契約して調達する有償軍事援助(FMS)のための2019年度予算額は、前年度比70.9%増の7,013億円と急増しました。
そのあおりを受けて、国内企業からの調達枠が圧迫されており、各社とも厳しい経営判断を迫られています。として、市場規模≒防衛予算となっていることが挙げられます。
また、日本において防衛装備の市場が拡大しない背景として防衛に特化した主要企業が存在しないことが挙げられます。
将来性
現状、採算性が悪く、企業の撤退が相次いでいる為、日本の防衛産業の将来性はかなり厳しいと考えられています。
例えば、陸上自衛隊向けに装甲車両を開発・生産してきたコマツ、戦闘機生産を担ってきた横浜ゴムや住友重工、戦闘機などの射出座席を生産してきたダイセルが防衛産業から撤退を表明しています。
日本では防衛装備の輸出が制限されてきたことによって、防衛産業のターゲットとなる市場が国内に限定されています。
日本では伝統的に防衛費の対GDP比が1%以内に抑制されており、アメリカやイギリスなど欧米先進国と比較して、低水準となっています。
また、人口の高齢化に伴う社会保障費の増加によって防衛関係費が削減される傾向にあり、今後は経済成長の鈍化に伴ってさらに防衛関係費の削減が進むことが危惧されています。
近年では、防衛費の一定の増加が行われているものの、増加分の多くはアメリカ製の防衛装備の購入に充当されており、日本の防衛産業への発注は限定されています。
日本の自衛隊向けだけの小さい市場、それも今後おそらく縮小が見込まれるであろう市場で多数の企業が携わる防衛産業には低い採算性から投資家からの批判も多いのが現状です。
これによって上述のように防衛産業から撤退し、企業内の防衛関連部門を廃止する動きもあります。
廃止によって防衛装備に係る専門的技術が失われ、技術力の低下が危惧されています。
政府としてはこのような現状に対応するために従来、日本の武器輸出を縛ってきた武器輸出3原則を緩和し、2014年4月に「防衛装備移転三原則」を閣議決定しました。
今後、日本企業の防衛装備の輸出の促進や欧米を中心とする企業との共同開発によるコストの削減などが期待されています。
業界の分類
大手重工メーカー
重工メーカーが社内の一部門として防衛装備を生産しています。
例としては三菱重工業、川崎重工業、IHIなどが挙げられます。
電機メーカー
電機メーカーが社内の一部門として防衛装備を生産しています。
例としては日立製作所、三菱電機、日本電気、富士通、東芝、ソニー、シャープ、村田製作所などが挙げられます。
船舶・航空機メーカー
船舶・航空機メーカーが社内の一部門として防衛装備を生産しています。例としては三井造船、ナカシマプロペラ、神戸製鋼所、日本飛行機、ヤンマーなどが挙げられます。
最新のトレンド
日本学術会議が軍事研究反対を堅持
日本学術会議は1949年に創設された内閣府の特別機関であり、日本の科学者の代表機関です。
日本学術会議に注目が集まったのは2020年9月に菅総理が日本学術会議が推薦した105人の新会員候補のうち6人の任命を拒否した問題です。
2004年に日本学術会議の会員が任命制度になって以来、日本学術会議が推薦した候補を政府が任命しなかったのは初めてのことです。
これに対して、日本学術会議や野党、一部のメディアは「学問の自由を脅かす重大な事態だ」と批判しています。
事の発端は2015年に将来的に武器などの防衛装備に転用できる軍事技術の基礎研究を公募し、応募した大学などへ助成金を出す「安全保障技術研究推進制度」を開始したことにあります。
これに対して、2017年に日本学術会議は「学術と軍事が接近しつつある」との懸念を示し、同制度に反対の声明を出しました。
日本学術会議のこのような姿勢は防衛産業にとっても悪影響を与えています。
「安全保障技術研究推進制度」はあくまでも大学などの研究機関が自主的に応募する制度ですが、日本学術会議が研究機関に対して、拒否の姿勢を強制することで日本の防衛技術の進展が遅れてしまうことが危惧されています。
日本では防衛産業の衰退や防衛装備コストの財政の圧迫が懸念されており、大学などの研究機関が自由に技術研究をして、防衛産業などと協力して防衛装備技術の開発をすることが期待されています。
この問題に対して、自民党は日本学術会議のあり方を検討するプロジェクトチーム(PT)を設置し、年間約10億円の国費を支出する妥当性や組織形態の検証を進めています。
出典:「軍事研究否定なら、行政機関から外れるべきだ」 自民・下村博文氏、学術会議巡り | 毎日新聞
防衛関連費は微増
日本では長らく武器輸出三原則によって武器の輸出が禁止されていたことから、実質的に防衛産業の顧客は自衛隊のみとなっています。
したがって、防衛予算≒防衛装備の市場規模となっており、防衛関連予算の増減が市場の拡大及び縮小を左右するという構造があります。
令和2年防衛白書 資料7 防衛関係費(当初予算)の推移(億円)
2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | |
防衛関係費 | 47,752.00 | 47,138 | 47,538.00 | 48,848 | 49,801 |
2016 | 2017 | 2018 | 2,019 | 2,020 | |
防衛関係費 | 50,541 | 51,251 | 51,911 | 52,574 | 53,133 |
令和2年防衛白書 資料8 防衛関係費(当初予算)の使途別構成の推移(億円)
2,016 | 2,017 | 2,018 | 2019 | 2,020 | |
装備品等購入費 | 7,659 | 8,406 | 8,191 | 8,329 | 8,544 |
上記の表の通り、防衛装備品の取得費や自衛隊の人件費といった防衛省が所管する防衛関連費は毎年増加傾向にあります。
2021年度政府予算案の防衛関連費は5兆3,422億円で、7年連続で過去最大を更新しました。軍拡を進める中国や北朝鮮に対処するため、新型ミサイルや次期戦闘機の開発を強化するための増額となりました。
自民党の国防部会では、2020年度の国防費の対前年伸び率が米国は5.4%、中国6.6%、韓国7.4%、ロシア10.0%だったとして、日本の伸び率が低いことを強調しています。
しかしながら、日本の財政事情を考えれば、防衛費の抜本的増額は容易ではありません。
急激な少子高齢化で社会保障費が急増しているほか、新型コロナウイルスの感染拡大で財政出動も増え、令和7年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するとの政府目標は困難との見方が支配的になっています。