
【就活生必見】鉄道車両の業界研究|事業構造・将来性・働き方など徹底解説
文理を問わず鉄道好きの学生から根強い人気を誇るのが鉄道車両メーカーです。鉄道車両メーカーはものづくりから日本の社会インフラを支えており、やりがいのある仕事です。また、社会インフラを供給しているため安定している業界でも多くの学生が志望します。鉄道車両メーカーから内定を獲得するためには鉄道車両メーカーのビジネスモデルや業界のトレンドを理解したうえで、面接官に自分の強みやスキルをアピールすることが求められます。この記事では鉄道車両メーカー各社の有価証券報告書や公的機関のレポートをもとに鉄道車両メーカーの業界研究を行っています。ぜひ最後まで読んで、鉄道車両メーカーの就活対策を行いましょう。
鉄道車両業界とは
この章では鉄道車両業界
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
業界構造
鉄道車両の製造・販売
鉄道車両の製造メーカーは鉄道車両やその部品、関連装置、また鉄道用レールなどの軌道用品を製造を担っています。日本の鉄道車両製造業界は車両、電機品、信号・制御などの各分野でそれぞれ専業メーカーが存在する。鉄道車両の製造プロセスとしては顧客のニーズの把握・車両の設計・組立・試作と試験走行・量産というものです。
鉄道車両は消耗品や生活関連製品のようにカタログ上の製品を製造して、全く同じ車両を大量生産するビジネスモデルではありません。鉄道会社を主とする顧客の要望やニーズに基づいて、鉄道車両の開発を行います。設計の段階では鉄道会社と打ち合わせて、車両に求められる安全性・快適性・高速性など様々な側面から基本設計を検討します。基本設計に基づいて、より具体的な設計や組立に移行しますが、鉄道車両製造メーカーがすべての工程を自社で行うわけではなく、他の電機メーカーなど部品ごとに下請け企業が存在し、鉄道車両製造メーカーはそれらの企業を指揮監督する立場で一つのプロジェクトを進めていきます。
車両の設計や試作品の製造が完成したら、次はテストの段階に移行します。顧客の仕様書や要望通りに車両が完成しているかどうかの確認を行うのです。鉄道車両は多くの乗客を乗せて運行し、それだけ多くの命を預かっています。もし、車両に欠陥があれば人命に関わる一大事ですので、不具合や欠陥がないかを徹底的に調査し、不具合があればその原因究明や再発防止の検討、製造部門へのフィードバックを行います。また、この段階においても鉄道車両製造メーカーは下請け企業の指揮監督の役割を担っています。
テストを繰り返し、車両の安全性・快適性・高速性に問題がなければ、顧客企業の現場に車両を納品・設置します。
このように鉄道車両メーカーのビジネスは一般消費者向けの製品と異なり、BtoBビジネスかつ個別の顧客のニーズに一つ一つ丁寧に対応するビジネスであり、消費財の様に流行にも左右されることはほとんどなく、自前の技術や経験、ノウハウを蓄積していってユーザーにソリューションを提供し、その後も長い関係を構築してメンテナンスサービスでも収益を稼いでいくという特徴があります。
鉄道車両のメンテナンス
鉄道車両メーカーは鉄道車両の製造及び下請け企業の指揮監督を担いますが、鉄道会社に鉄道車両を納品したら、ビジネスが完結するわけではありません。鉄道車両は少なくとも10年以上利用する工業製品ですので、顧客企業は長期に渡り使用することを前提としています。工業製品を長期間使用するためには定期的なメンテナンスが必要となります。
メンテナンスの方法として最も一般的な方法は顧客自ら行うセルフメンテナンスです。これは鉄道車両メーカーが事前に作成したマニュアルに沿って、鉄道会社が自らメンテナンスを行う方法です。一方で、鉄道車両メーカーのサービスとして有償メンテナンスを実施しています。これは鉄道に故障や不具合が場合に備えて、メーカーから鉄道会社に専門会を派遣して、修理に対応する方法やメーカーの人材を常に鉄道会社に常駐させる契約を締結します。
鉄道車両にも一般消費財と同様に保証期間が設けられており、保証期間中は無償でメンテナンスを受け、一定の保証期間が終了すると、鉄道メーカーによる修理対応は有償となる仕組みです。
しかしこの従来の手法にも限界があるため、一部ではIoT技術を組み込んだシステムを構築することで例えば機械を使った分だけ請求し、ユーザーは使った分(稼働時間分)だけ支払うサブスクリプション・モデルも可能になってきました。
鉄道車両の輸出
日本の鉄道車両は広く海外に輸出されています。安全性、信頼性、省エネルギー性、環境性能などの面で日本の鉄道システムが注目されており、特に通勤電車と新幹線が海外向けに輸出されています。
また、政府は海外の鉄道インフラ需要をとりこむことに積極的であり、官民一体となった鉄道輸出を推進し、成長戦略の重要な柱の1つに位置づけています。
鉄道車両の輸出は技術輸出ですので、鉄道車両そのものを海外に輸出しているわけではありません。海外の現地の工場で鉄道車両を設計・製造しているほか国内で利用された鉄道車両を分解して、中古品として新興国中心に販売されています。
市場規模・将来性(シンクタンクのレポートなどを)
市場規模
業界動向リサーチによれば、2020年-2021年の鉄道車両業界の業界規模(主要対象企業12社の売上高の合計)は11025億円となっています。
一般社団法人日本鉄道車輌工業会によれば、過去20年間の年度別需要先別鉄道車両生産実績(両)は以下のとおりです。
2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | |
JR新幹線 | 359 | 314 | 282 | 151 | 109 | 35 | 352 | 352 | 408 | 513 |
JR在来線 | 762 | 674 | 695 | 1,034 | 763 | 1,158 | 1,021 | 669.00 | 737 | 741 |
公民鉄 | 377 | 615 | 547 | 831 | 694 | 738 | 820 | 795 | 673 | 465 |
輸出 | 516 | 308 | 263 | 439 | 358 | 255 | 267 | 463 | 328 | 276 |
合計 | 2,014 | 1,911 | 1,787 | 2,455 | 1,924 | 2,186 | 2,460 | 2,279 | 2,146 | 1,995 |
2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
JR新幹線 | 400 | 290 | 336 | 385 | 250 | 193 | 252 | 268 | 288 | 272 |
JR在来線 | 818 | 764 | 673 | 722 | 712 | 782 | 872 | 650 | 435 | 499 |
公民鉄 | 535 | 423 | 470 | 452 | 628 | 699 | 699 | 634 | 999 | 783 |
輸出 | 38 | 97 | 184 | 53 | 186 | 94 | 297 | 353 | 139 | 224 |
合計 | 1,791 | 1,574 | 1,663 | 1,612 | 1,776 | 1,768 | 2,120 | 1,905 | 1,861 | 1,778 |
国土交通省の鉄道車両等生産動態統計年報によれば、2019年度の鉄道車両の受注総計は53,525両・4,474億円(前年度比100.1%増)でした。
これを新造、改造、修理別にみると、
- 新造は2,967両・4,230億円(同106.9%増)
- 改造 は4,034両・99億円(同36.6%増)
- 修理は46,524両・145億円(同21.1%増)
- このうち、新造の金額の構成比については、国内向け84.2%(JR50.0%、JR以外の 民鉄34.2%、公的企業19.9%)、輸出向け15.8%
- また、輸出向けは216両(同0.5%増)、669億円(同100.8%増)
でした。
2019年度の鉄道車両の生産総計は52,113両・2,470億円(前年度比0.2%減)でした。 これを新造、改造、修理別にみると、
- 新造は、1,823両・2,249億円(同0.5%減)
- 改造 は、3,826両・82億円(同9.9%減)
- 修理は、46,464両・139億円(同13.2%増)
このうち新造の金額の構成比については、国内向け88.4%(JR42.0%、JR以外の民鉄46.4%、公的企業24.8%)、輸出向け11.6%
でした。
新造を、需要先別、車種別にみると、まず国内向けは、
-
1,675両・1,987億円(同19.6% 増)であり
- このうち電気機関車は、4両・10億円(同47.0%増)
- ディーゼル機関車は、 13両・26億円(同94.4%増)
- 電車(新幹線を除く)は、1,261両・1,333億円(同15.3% 増)
- 新幹線は、260両・416億円(同3.9%増)
- ディーゼル車は、94両・185億円(同 138.7%増)
- 貨物車は、26両・8億円(同172.1%増)¥特殊車両は、11両・7億円(同 73.8%増)
-
国内向けのうち
- JR向けは、683両・944億円(同9.0%減)
- 民鉄向けは、992両・1,043億円(同67.1%増)
- 公的企業向けは、510両・557億円(同48.6% 増)
でした。 また、輸出向けは148両・262億円(同56.3%減)でした。
世界の鉄道車両の市場規模を見てみると、国土交通省によれば、アジア、西欧、北米を中心に、年間約24兆円規模の市場が存在します。
将来性
国土交通省によれば、国内の鉄道車両の市場は輸送人員や車両及び車両部品の国内需要は比較的堅調であるが、今後の人口減少を見据えると大幅な需要の増加は見込めません。
鉄道車両の世界市場:タイプ・用途別、国地域別2025年予測(Rolling Stock Market by Product Type)によれば、4.4%のCAGRで推移し、鉄道車両の世界市場規模は2025年に643億ドルに達する見通しです。2020年の同市場規模は516億ドルと推計されます。
政府や鉄道事業者による路線電化への投資拡大の支援を受けて、電気機関車の需要が増加しており、鉄道車両市場を後押ししています。
地域別では、アジア・オセアニア地域が2020年に最大の規模を示しています。同地域における高速鉄道プロジェクトや鉄道輸送システムを利用した貨物専用路への需要が同地域の成長を牽引しています。また、国内市場に加え、海外市場からの需要も増加しており、市場成長を加速させています。
さらに北米では,人口増加の影響や景気対策・雇用拡大の一環として、社会インフラへの投資が積極的に検討されており、ニューヨークを中心とした北東回廊などにおいて車両増備、更新の需要が顕在化しています。また、アジアにおいては、新興国の都市化を背景とし て鉄道インフラへの投資が活発化しており、インドや東南 アジアなどで旺盛な鉄道車両需要が存在します。また、日本政府は円借款をはじめとして、成長戦略の重点項目とし てインフラ輸出に積極的な姿勢を示しています。
業界の分類
鉄道系
鉄道会社と結びつきの強い企業には東海旅客鉄道(JR東海)の傘下に入った日本車両製造と、東日本旅客鉄道(JR東)グループの総合車両製作所(旧東急車両製造)があります。海外進出でも鉄道会社系はJRの戦略に左右される場合が多いようです。
独立系
独立系の日立製作所と川崎重工業、近畿車輌は各鉄道メーカーと等距離外交をとっています。海外戦略では日立や川崎重工は独自の判断で納入国の開拓を進めています。
最新のトレンド
新型コロナウイルスの影響は限定的
鉄道車両メーカーの市場規模の推移を見てみましょう。経済産業省の工業統計調査によれば、鉄道車両と鉄道車両部品出荷額の推移は2014年から2015年は増加、2016年には減少し、2017年には再び増加、それ以降は横ばいで推移するなど全体として横ばいで推移しています。直近のデータである2018年の鉄道車両の出荷額は、前年比31.5%増の3,548億円、鉄道車両部品は27.0%減の3,898億円、鉄道車両+鉄道車両部品の合計は前年比7.4%減の7,446億円でした。
鉄道車両のメーカーは各鉄道メーカーと等距離外交をとっている独立系の日立製作所と川崎重工業が高いシェアを誇っています。一方で部品メーカーは駆動装置、制御機器、パンタグラフ、信号、車輪など各分野で得意領域が異なり、部品ごとの寡占状態です。
鉄道車両メーカーの業績の特徴としては納入先である鉄道業界の経営状況の影響を強く受けます。直近では、新型コロナウイルスの影響により感染者が多い地域を中心に外出を控える傾向があります。さらに在宅勤務、時差通勤を導入する企業が増えた結果、都市部を中心に駅の利用者が減少しています。
しかし、鉄道車両という工業製品の特殊上、鉄道会社から受注してから売上に反映されるまえに時間がかかるので、依然として受注残高は高い水準を維持しています。現在のところ、新型コロナウイルスの影響は限定的に抑えられていますが、今後も鉄道利用者の減少が続き、鉄道会社の業績が悪化すれば、影響は避けられません。
世界市場で鉄道メーカーの再編が進む
長期的に人口減少が進み、鉄道利用者が減少する日本では鉄道の需要の増加は見込めません。一方で海外では北米・アジア・オセアニア地域など幅広い地域において需要の増大が期待されています。
世界の鉄道メーカー各社は規模のメリットを追求するために統合・再編を行っています。中国中車は中国政府の一帯一路政策の影響を受けて、世界1位の中国北車と2位の中国南車が2015年に合併して誕生した世界最大の鉄道メーカーであり、売上高は3兆4,352億円とトップです。日本の鉄道メーカートップの日立製作所が5,803億円ですので、そのスケールの大きさが分かります。中国中車はインフラ需要の期待できるアジア・アフリカ地域で大型の鉄道発注を受けており、価格競争力を武器に世界市場で優位に立っています。
これに対して、これまで鉄道部門で競合関係にあった業界2位のドイツのシーメンスと3位のフランスのアルストムが2中国との競争に対抗するため2017年に欧州地域で巨大企業を設立することを発表していました。しかし、2019年に欧州委員会が独占禁止法の観点から鉄道事業の合併を不承認としました。しかし、2020年にはアルストムが業界4位のカナダの輸送機器大手ボンバルディアの鉄道部門でドイツに本社を置くボンバルディア・トランスポーテーションの買収を発表しました。
今後も鉄道メーカーでは再編の動きが加速することが予測されていますが、日本の鉄道メーカーはこのような流れに取り残された感があります。
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