
【就活生必見】印刷業界の業界研究|事業構造・将来性・働き方など徹底解説
印刷業界は就活において比較的ニッチな業界であり、多くの学生にはあまり馴染みがないかもしれません。学生によっては広告業界や出版業界との区別がわからない方もいるでしょう。しかし、印刷業界は書籍や雑誌の印刷、包装材のパッケージの印刷など実は私達の生活に不可欠な存在です。印刷業界は構造不況と言われていますが、時代の変化に対応して、困難を乗り越え、比較的高給かつ安定していると言われています。それを知っている学生は印刷業界を志望し、人気が高まっている業界です。ライバルとの競争に勝って内定をもらうために印刷業界のビジネスモデルや業界の動向などを正しく理解し、その上で自分の経験や強みがどのように活きるかをアピールすることが重要です。この記事では各社の有価証券報告書や公的機関のレポートをベースに印刷業界を解説しています。最後まで読んで、印刷業界の就活にチャレンジしてください。
印刷業界とは
この章では印刷業界の次について解説していきます。
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンド
ではさっそくみていきましょう。
業界構造
印刷業界の下請け構造
印刷といえば「紙に文字や絵、画像をプリントする」ことが想像しやすいかもしれませんが、印刷業界は書籍や雑誌などの出版物やカタログ、パンフレットやチラシ・ポスターなどの広告媒体、新聞のような一般印刷物、帳票(ビジネスフォーム)、シールやラベル、紙器、軟包装材、建材、テレビやPC・携帯電話・自動車部品。電子部品などの工業品など需要は多方面に渡ります。また、最近では凸版印刷や大日本印刷等の大手の印刷会社は壁紙などのインテリアや建材分野やパッケージ生産などの産業印刷も受注しています。
これらの印刷物は顧客からのオーダーメイドで製造されています。したがって、一般消費財のように特定の商品を大量生産するビジネスモデルではなく、顧客のニーズに個別に対応する必要があるという特徴があります。
印刷業界はピラミッド型の下請け構造で成り立っています。凸版印刷や大日本印刷などの大手の印刷会社はすべての印刷工程を自社で行うことができますが、大半の印刷事業者は各印刷工程を形成しており、印刷の前段階である製版、後工程にあたる製本加工、光沢加工など各工程にそれぞれの事業者がいます。具体的には顧客からの印刷物の受注から納品までは以下の工程で進みます。
- プリプレス工程
- プレス工程
- ポストプレス工程
- 納品
プリプレス工程はさらにデザインと原版制作の工程に分けられます。デザインとは印刷物の下書きや原稿の企画・文章作成を含む編集作業です。デザインは印刷会社に発注せず、顧客が自社で行ったり、広告代理店や出版社に発注する場合もあります。原版制作とは製版、すなわち原版から印刷版面をつくること工程であり、着色まで含みます。
プリプレス工程に続くのがプレス工程です。プレス工程には刷版と印刷の工程に分けられます。刷版とはオフセット印刷機に使用する印刷の原版を指します。刷版には2つの方法があり、1つは製版フィルムを感光性のあるアルミ板に焼き付けて現像処理をする方法であり、もう1つは出力用データを、PostScript対応のプレートセッタから刷版(CTPプレート)に焼き付けた状態で出力して作る方法です。印刷工程は平版オフセット印刷、グラビア印刷(凹版印刷)、凸版印刷、スクリーン印刷(孔版印刷)など様々な印刷方法があります。
ポストプレス工程とは断裁、折り、光沢加工、製本などの印刷物を仕上げる工程であり、これで印刷のすべての工程が完了します。
これらの事業者が下請け企業群を構成しており、最初に受注した印刷会社が他の下請けの印刷会社に外注して、受注を消化しています。各工程の専業事業者である印刷会社は自社で印刷物を受注すると同時に大手印刷会社から割り振られる業務を扱っています。印刷の需要は多岐に渡り、特別な加工を施す必要のある印刷物や高品質の印刷物が求められる場合は大手の印刷会社は小回りの利く下請け企業に発注することで効率を上げています。
このように基本的には下請け構造の分業体制が取られていますが、大手を中心に各種の印刷物をセットする工程、梱包する工程、仕分けする工程、ラベリングする工程、運送・発送・納品から受発注管理、在庫管理というフルフィルメントまでを一連のサービスとして受注して収益化している企業も存在します。
印刷以外のビジネス
従来、印刷企業は印刷業をメインに行っていましたが、長期に渡る出版不況や社会全体のペーパーレスの動きによって印刷物の需要は減少しています。このような中でデジタル技術を活用した新しいビジネスが大手を中心に始まっています。
新しい取組の中でも最も親和性が高いのが広告業界です。例えば、従来は広告代理店が担っていた広告の企画やデザイン、プロモーションなどを印刷会社が担い、広告ビジネスと印刷事業を組み合わせたビジネスが生まれています。
広告のデザインからラベルなどの印刷までをワンストップで行うサービスを提供しています。また、電子書籍、電子チラシ、電子漫画やアプリなどに広告を展開し、広告収入を得るビジネスモデルも生まれています。
市場規模・将来性
市場規模
業界動向リサーチによれば、2020年-2021年の印刷業界の市場規模(主要対象企業25社の売上高の合計)は3兆6,416億円となっています。経済産業省の工業統計によると、2018年の印刷業界の製造品出荷額は4兆3,210億3,900万円(前年比5.2%)となりました。内訳はオフセット印刷業(紙に対するもの)が3兆1,436億円、オフセット以外の印刷業が4,350億円、紙以外の印刷が7,468億円、製版業が2,865億円となりました。
株式会社矢野経済研究所が発表した国内一般印刷市場規模推移は以下のとおりです。
(単位:百万円)
2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
市場規模 | 3,611,807 | 3,573,725 | 3,572,074 | 3,531,727 |
前年度比(%) | 98.9 | 100.0 | 98.9 | |
2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
市場規模 | 3,494,057 | 3,453,199 | 3,439,091 | 3,194,000 |
前年度比(%) | 98.9 | 98.8 | 99.6 | 92.9 |
2018年度の国内一般印刷市場規模は、事業者売上高ベースで3兆4,531億9,900万円、前年度比1.2%減となりました。ビジネスフォーム印刷分野におけるDPS(データプリントサービス)やBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場の減少幅が小さくなりました。また、証券市況の活況が続いたことでディスクロージャー関連の需要も更に拡大したものの、出版印刷が引き続き減少し、また商業印刷も印刷物の需要縮小が加速したことにより、減少推移となっています。
一方、2019年度の同市場規模は、前年度比0.4%減の3兆4,390億9,100万円と減少推移が続いていますが、その減少幅は縮小しています。分野別にみると、出版印刷や商業印刷は2018年度と同様の推移となりましたが、消費税率10%への引き上げに伴う政府の消費下支えのためのさまざまな施策により、キャッシュレス決済関連サービスやそれに係るICカード関連の需要が増加、またプレミアム商品券の需要も大幅に拡大しました。
また、経済産業省が発表した「生産動態統計調査」によると、2021年1ー3月期の印刷業の生産金額は882億5,000万円で、前年同期比1.8%減となり、減少幅は前期(2020年10月ー12月)より若干改善しました。製品別では、商業印刷は前年同期比▲4.2%、出版印刷は同▲5.1%、事務用印刷は同▲3.3%でした。証券印刷も減少に転じ同▲10.1%となりました。
2021年1ー3月期の印刷方式別の生産金額では、主力の平版(オフセット)印刷は前年同期比5.5%の減少となりました。減少幅は前期から横ばい。凸版(活版)印刷の生産金額は前年同月を上回るとともに前期の伸び幅より拡大しました。凹版(グラビア)印刷は4.3%増でした。
このように印刷業界が縮小傾向にある中でデジタル印刷業界は拡大しています。株式会社矢野経済研究所によれば、デジタル印刷市場規模の推移は以下のとおりです。
(単位:百万円)
2012 | 2013 | 2014 | 2015 |
274,228 | 292,161 | 303,481 | 330,197 |
2016 | 2017 | 2018 | 2019 |
323,441 | 315,275 | 313,649 | 314,600 |
将来性
株式会社矢野経済研究所によれば、2021年度の一般印刷市場は大幅な縮小が避けられない見込みです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、印刷企業各社が見通しを立てられていません。
最大マーケットである商業印刷分野が厳しい状況にあることを踏まえると、リーマンショック後と同等の10%前後の減少幅が想定されます。一方で、コロナ禍によって発生した需要もあることから、減少幅は若干小幅となる見通しで、2021年度の一般印刷市場(事業者売上高ベース)は前年度比7.1%減の3兆1,940億円を見込んでいます。
印刷業界の市場規模について厳しい予測がある一方で、デジタル印刷業界は拡大する見込みです。株式会社グローバルインフォメーションが発表した市場調査レポート「デジタル印刷の世界市場 」によれば、デジタル印刷の市場規模は、2021年の248億米ドルからCAGR6.7%で成長し、2026年には343億米ドルに達すると予想されています。持続可能な印刷への需要の高まりや、包装・繊維産業の発展が、デジタル印刷市場の成長を促進する要因となっています。
業界の分類
大手2社
印刷業界の大手は凸版印刷と大日本印刷の2社です。売上高や開発力、生産力で他社を圧倒しています。この2社のほかには売上高100億円以上の企業も数十社しかなく、圧倒的に中小企業が多いのが特徴です。山田コンサルティンググループによれば、印刷業界の市場規模5兆2,378億円のうち、凸版印刷が1兆4,647億円、大日本印刷が1兆4,015億円を占めています。
準大手
明確な定義はありませんが、凸版印刷と大日本印刷の大手2社に次いで、準大手と言われている印刷企業はトッパン・フォームズ、NISSHA、フジシールインターナショナル、共同印刷、図書印刷、日本創発グループ、共立印刷などがあります。
最新のトレンド
市場規模は縮小傾向
印刷業界の過去の市場規模の推移について見てみましょう。株式会社矢野経済研究所が発表した国内一般印刷市場規模推移は以下のとおりです。
(単位:百万円)
2013 | 2014 | 2015 | 2016 | |
市場規模 | 3,611,807 | 3,573,725 | 3,572,074 | 3,531,727 |
前年度比(%) | 98.9 | 100.0 | 98.9 | |
2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
市場規模 | 3,494,057 | 3,453,199 | 3,439,091 | 3,194,000 |
前年度比(%) | 98.9 | 98.8 | 99.6 | 92.9 |
印刷業界は電子書籍やインターネットの普及、出版不況やペーパーレス化のなかで紙媒体の需要は減少しています。印刷業界の関連出荷額はここ20年で40%程度縮小しており、市場規模は3兆円を割る勢いです。また、企業の広告宣伝費の縮小などもあり、BtoBの印刷事業も縮小が続いています。
印刷用途別の生産金額で見ると、新聞・雑誌・書籍等の発行部数に連動している出版印刷の落ち込みが大きく、デジタルメディアへの移行等による新聞・出版業界の構造不況が影響しています。
折込チラシ・DM・カタログ・パンフレット等の発行部数に連動している商業印刷は、景況感の変化による企業の広告費の影響を受けやすく、近年では持ち直しているものの、広告メディアそのもののデジタル化が進んでおり、緩やかな縮小を見込んでいます。食品・飲料ペットボトル・医薬品・日用品等に係るパッケージ・ラベル印刷が主である包装印刷は、底堅く推移しています。
2019年の各社の有価証券報告書によれば、印刷業界の上位10社のうち1社のみが増収を達成しており、他の企業の業績は悪化傾向にあります。印刷業界の市場環境の激化に伴って、中小の事業者のなかには撤退する企業も出てきており、市場は寡占化が進んでいます。今後は凸版印刷や大日本印刷などの大手の印刷会社の市場シェアがさらに高まると予想されます。
各社は事業の多角化を推進
従来の印刷業界のビジネスモデルが転換を迫られている中で各社は新しい収益モデルの構築を急いでいます。例えば、業界大手の凸版印刷や大日本印刷は非印刷分野にも進出しており、電子書籍などのデジタルコンテンツ、ビジネスマッチング、5G関連事業、VRコンテンツなどに取り組んでいます。
凸版印刷はIoTやAIなどの最新技術に注力しており、IoT機能付きの住宅建材をリリースしたほか、飲食店や医療などBtoBビジネス向けにAI活用の「多言語音声翻訳機」を開発しています。また、大日本印刷ではAI技術を応用した紙面のレイアウト自動作成機能などを開発しています。
紙媒体の需要が減少する中で、今後デジタル化やペーパーレス化はさらに進むと予想されており、各社は成長が期待されるデジタル分野などで新たな収益源を確保したい考えです。
相場変動による仕入コストの増大
印刷業界の仕入れコストは主に紙・フィルム・インク・溶剤などで構成されています。これらの主要原材料は原油価格や為替レートの影響を強く受けます。したがって、印刷業界各社は原油価格や為替レートの変動によるコスト増大のリスクを抱えています。
原油価格の動向としては2000年代初頭は中東地域の地政学リスクの増大や経済成長の一印途上国の原油需要の増大によって原油価格は高騰しました。しかし、その後は米国初のサブプライムローン問題やリーマンショックによって価格は下落。近年は投機資金流入等により、再び上昇傾向にああります。
印刷業界は顧客との交渉地位が低く、資材価格の上昇によるコスト増を価格に転嫁することが難しいため、経営リスクとなっています。