
スポーツ用品業界の業界研究|就活に役立つ事業構造・将来性・働き方など徹底解説します
スポーツ好きの学生から根強い人気を誇るのがスポーツ用品の業界です。学生時代にスポーツに励んできた学生にとっては好きを仕事にできる業界であり、多くの体育会系の部活の学生が志望します。この記事では各社の有価証券報告書やシンクタンクのレポートを参考にしてスポーツ用品業界における製造業、卸売業、小売業などのビジネスモデルや業界のトレンド、メインメーカーの動向などを詳しく解説しています。記事を読んだ上で自分の強みやスキルがどのように活かせるのかをイメージして、就活に望みましょう。ぜひ最後まで読んで就活対策を万全にしてください。
スポーツ用品業界とは
この章ではスポーツ用品業界の
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
業界構造
スポーツ用品のビジネスモデル
スポーツ用品業界ではランニングシューズ、野球用品、サッカー用品、ボール、釣り用具などスポーツ用品を取り扱っています。
ビジネスモデルは食品やその他の一般消費財と同様にBtoBtoCモデルです。
まずはスポーツ用品のメーカーがスポーツ用品の開発・製造を担います。
代表的な企業として国内ではミズノやアシックス、海外ではナイキやプーマ、アディダスなどがあります。
これらの製造メーカーは製造のみならず自社のECサイトでの販売や運営するスポーツショップでの販売も行っています。
製造されたスポーツ用品は卸売業者に販売されます。
卸売業者はスポーツ用品やレジャー用品などを買い取り、全国のスポーツ用品店に販売する中間流通を担います。
スポーツ用品メーカーとスポーツ用品店の間に立って、商品の流通を促進する役割を担います。
代表的なスポーツ卸売業者としては、ZETTやモルテン、SSKなどが挙げられます。
ただし、近年ではスポーツ用品の製造から流通、小売までを手掛ける大手が数多く存在していることから、純粋な中間流通業者がほとんど存在しない状況になっています。
食品業界や一般の消費財ではメーカー→卸売業者→小売という伝統的な商流が完成していますが、スポーツ用品は戦後急成長した業界であることから、伝統的な卸売業者が少ないようです。
また、スポーツ用品のメーカーと認知されているものの実際には生産の大部分をアジアを中心とする海外の企業に委託しており、自社では卸売業と小売を行っている企業や、スポーツ用品の開発及び企画機能のみを有して、生産自体は国内や生産は国内や海外の提携企業に委託し、実質的に卸売業になっている企業もあります。
スポーツ用品は卸売業者から全国のスポーツ用品店に販売されます。代表的なスポーツ用品店としてゼビオ、アルペン、ヒマラヤなどが挙げられます。
多くの小売店は店頭で商品を販売しているほか、学校やスポーツチーム向けの法人向けの販売やECサイトでの販売も行っています。
1つの店舗で様々なスポーツジャンルの用品を取り揃える「総合スポーツ店」と特定のジャンルのスポーツ用品のみを取り揃える「スポーツ専門店」があります。
これらの店舗ではスポーツ用品の販売のみならず、シューズやラケットなどの修理などの業務も行っています。
また、これらの小売店以外にも百貨店や直営店、製造メーカーのECサイトなど様々な業態で販売されています。
スポーツ用品の輸入
スポーツ用品の製造業はスポーツ用品を製造し、卸売業者に販売するというビジネスモデルで収益を上げてきました。
しかし、近年では中国などアジア諸国のメーカーが安い労働力を使って大量生産を行っており、競争力を高めています。
国内のメーカーも生産コストの低減を図り、価格競争力を高めるために生産拠点をアジアの新興国に移転する動きがあります。
移転先の大半が中国であり、ほかに台湾やタイ、ベトナムなどのアジア諸国が大きな割合を占めます。したがって、国内ではスポーツ用品の製造業として認知されていても実際には海外に現地工場を設立したり、現地のメーカーに生産を委託し、国内ではスポーツ用品の卸売業者にスポーツ用品の販売を行ったり、直接小売店に販売するビジネスモデルが普及しています。
市場規模・将来性(シンクタンクのレポートなどを)
市場規模
スポーツ用品業界の主要企業上位12社の売上高の合計は2020年度で1兆0,552億円となっています。
株式会社 矢野経済研究所の調査レポートによれば、2020年のスポーツ用品国内市場規模(国内出荷額ベース)は、前年比89.2%の1兆3,737億8,000万円を見込みます。
スポーツ用品分野別国内出荷市場規模は以下のとおりです。
(単位:百万円)
ゴルフ | スキー関連 | 釣り | アスレチック | アウトドア |
263,920 | 32,750 | 156,820 | 201,000 | 256,380 |
シューズ | テニス | スイム | 野球・ソフト | サイクリング |
313,900 | 43,240 | 15,600 | 63,800 | 50,030 |
バドミントン | 武道 | 卓球 | サッカー | バスケ |
13,000 | 9,140 | 11,000 | 51,390 | 23,570 |
バレー | ラグビー | |||
8,610 | 3,830 |
スポーツ用品の市場の縮小の背景には新型コロナウイルス感染症の影響があります。
スポーツ用品の市場は大規模なスポーツイベントやアスリートの活躍に影響を受けますが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが1年延期されました。
また、その他大小のスポーツイベントも中止や延期されたため法人向けのスポーツ用品販売は大きく落ち込みました。
また、政府の緊急事態宣言発令によってスポーツ用品店が臨時休業や営業時間短縮などの感染症防止対策をとったことで、業績が悪化した企業が増加しました。
一方で2020年のスポーツ用品市場はジャンルによって明暗が分かれる結果となっています。
外出の自粛要請によって家で時間を過ごす人が増え、ゴルフ用品、アウトドア用品など密にならないスポーツやアクティビティが注目されています。
これらのジャンルはコロナ禍でも最小限の落ち込みにとどまる見込みの他、釣用品やサイクルスポーツ用品に至っては前年からプラス成長を果たす見込みとなっています。
中長期的にはどうでしょうか?日本公庫総研レポート「スポーツ用品製造業の経営戦略」によれば、スポーツ用品の市場規模は縮小傾向にあります。
過去30年の市場規模の推移としては1992年に8,430億円と市場のピークを迎えましたが、その後減少。
2002年以降は長期的な景気拡大期に入り、多くの製造業で業績が改善したもののスポーツ用品の出荷額は減少しました。
さらに2008年のアメリカ初のサブプライムローン問題やリーマンショックによって市場は打撃を受けています。
ピーク時の1992年に比較して、2016年時点で市場規模は約4割にまで縮小しています。
市場の縮小の背景には少子化があると見られています。
スポーツ用品業界にとって体育教材や部活動の用途で購入する学生や学校は、大口の販売先です。
また、小中学生時代に親しんだスポーツを成年期以降も趣味とする人が少なくないことから、学生は将来の潜在的な購買層となっています。
しかし、文部科学省「学校基本調査」によれば、学生(小学生+中学生)数は1982年にピークを迎えてから一貫して減少しています。
1982年には1,756万人でしたが、2018年には約半分の968万人となっています。
将来性
矢野経済研究所によれば、2021年のスポーツ用品国内市場規模(国内出荷額ベース)は前年比110.5%の1兆5,179億8,000万円と予測されます。
2020年に東京オリンピック・パラリンピックやその他のスポーツイベントが延期されたことにで大幅な減少となったため、その反動増によって2021年はプラス成長が見込まれます。
ただし、東京オリンピック・パラリンピックが無観客開催となったことで、スポーツ熱は一定程度に抑制されることから増加幅は限定的となるでしょう。
また、今後、新型コロナコロナウイルス感染症が再度拡大局面に入った場合は各種スポーツイベントの中止が予想され、スポーツ用品市場への影響が懸念される。
スポーツ用品業界の中長期的な市場の推移はどうなるでしょうか?結論では、スポーツ用品の将来性は極めて厳しいと予想されます。
近年では政府のスポーツ振興策によってスポーツに対する人々の関心は高まっているものの、需要の大半はウォーキングなど用具の需要にあまり結びつかない負荷の軽い種目に集中しています。
さらに人々の生活スタイルが変化し、趣味や嗜好が多様化したことでスポーツ以外の娯楽が増えています。それによって人々のスポーツへの関心は限定的なものとなっています。
最大の要因は少子化です。少子化に伴う学生数の減少によって、体育教材や部活動の用途の需要が縮小したとともに、将来の潜在的顧客層も減少しています。
公益財団法人生命保険文化センターによれば、少子化によって2045年には15歳未満人口は2015年対比で約71%程度へ落ち込むと予想されています。
さらに他の業界の製造業と同様に中国を中心とする新興国のメーカーの低価格製品の圧力を受けています。
これらのメーカーは巨大な資本と低廉な労働力を用い、桁違いの規模で量産を行う ことで競争力を高めているため、国内のメーカーは警戒を強めています。
このように国内市場が縮小すると予想される中で期待されるのが海外進出です。
日本のスポーツ用品メーカーは製造技術が高く、品質は欧米や新興国メーカーより優位性がありますが、ブランディングが弱く、海外の需要をうまく取り込めていないと指摘されてきました。
海外市場をどう開拓していくかが各メーカーが直面している課題です。
業界の分類
スポーツ用品製造業
スポーツ用品の開発・製造を担うメーカーです。
代表的な企業として国内ではミズノやアシックス、海外ではナイキやプーマ、アディダスなどがあります。
スポーツ用品卸売業
スポーツ用品の中間流通を担っています。
代表的なスポーツ卸売業者としては、ZETTやモルテン、SSKなどが挙げられます。
スポーツ用品小売業
スポーツ用品の店頭販売や法人向けの販売を担う小売業です。
代表的なスポーツ用品店としてゼビオ、アルペン、ヒマラヤなどが挙げられます。
最新のトレンド
ECサイトが普及
従来、スポーツ用品業界ではスポーツ用品店での店頭販売が主流でした。
しかし、近年ではECサイトでの販売の割合が増えています。
「Japan Sports Tracker」によれば、直近1年のスポーツ用品の市場規模は前年比+4%拡大していますが、購入場所はECサイトがスポーツ用品店を抜いて1位でした。
ECサイトの市場規模は2.440億円で成長率は市場全体の成長率を大きく上回る前年同期比21%でした。
ECサイトの普及自体はスポーツ用品に限らず多くの業界で共通していることです。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって外出自粛要請が出され、ECサイトの存在感が増しています。
スポーツ用品業界で特筆すべき点は利用者がシニア世代にまで拡大していることです。
従来、シニア世代はスマホやインターネットの利用が苦手であり、ECサイトの利用を避けるデジタルデバイドが生じていると考えられてきました。
しかし、新型コロナウイルス感染症が長引き、多くの人が外出自粛が余儀なくされているなかで、これまでECサイトを避けてきたシニア世代であってもECサイトの利用が避けられない状態となっています。
シニア世代は新型コロナウイルスにかかると重症化するリスクが高く、事態が収束するまでは巣ごもりを余儀なくされると予測されることから、世代を問わないECサイトの利用はさらに普及していくと考えられます。
アスリートの活躍が市場に好影響
スポーツ用品業界は人々の趣味の多様化や少子化などによって構造的な市場縮小が続いています。
しかし、足元では市場は拡大しています。
経済産業省「商業統計調査」によれば、スポーツ用品店などの小売店の販売額は2012年から増加しており、2016年には1.4兆円とピーク時の1994年の約7割など回復しています。
経済産業省「工業統計表」品目別統計表によれば、スポーツ用品は種目によっては大きな拡大期に入っています。
2012年のスポーツ用品の出荷額を100とすると、2016年は99.6となっています。
しかし、バスケットボール・バレーボール・ラグビー・ サッカー等用具・テニス・卓球・バドミントン用具では150を超えています。
これらの種目の販売額の増加の背景にはアスリートの活躍があります。
例えば、バスケットボールでは日本人のアメリカNBAが誕生し、プロリーグも創設されました。
サッカーではヨーロッパのサッカーリーグで活躍する選手が増え、ラグビーはワールドカップで日本チームが快進撃をしました。
ほかにもグランドスラム大会のシングルスで日本選手が初の優勝を果たしたテニス、五輪でメダルを獲得し若い有望選手が続々と登場してきた卓球、バドミントンなど、いずれも世界的選手を輩出しています。
アスリートの活躍によって競技やアスリートに対する期待や夢、憧れというポジティブなイメージが、市場拡大の追い風になっています。