
ホテル業界の業界研究|就活に役立つ事業構造・将来性・働き方など徹底解説します
おもてなしの最高峰であるホテル業界。官民挙げて観光立国化を進める中でホテル業界に注目が集まっています。学生にとっても身近な存在であることから、知名度も高く、学生から根強い人気を誇ります。この記事ではホテル業界各社の有価証券報告書、シンクタンクや政府関係機関のレポートを参考にして、ホテル業界の業界研究を行っています。ホテル業界のビジネスモデルや業界トレンド、各社の動向を詳しくまとめていますので、理解した上で自分の強みや経験がどう活かせるのかを考えましょう。
ホテル業界とは
この章ではホテル業界の
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
業界構造(Tier1・2や商流やメインビジネス(稼ぎ方))
宿泊収入
宿泊サービスはホテルで提供している最も基本的なサービスであり、メインの収入です。
宿泊客がホテルに宿泊する際に支払う宿泊料がホテルの収入となります。
宿泊収入を向上させるために重要となるのが客室の稼働率です。
宿泊客がいなくても人件費や光熱費などの固定費は恒常的に発生するので、客室に空きを作らずに、常に満室にすることが重要です。
稼働率が高いほど安定した収益を確保することができます。
稼働率を上げるためにホテルが実施ているのは「新規顧客の獲得」と「リピーターの獲得」です。
新規顧客の獲得についてはインターネットの予約サイトにホテルを掲載したり、インターネット、雑誌などに広告を出稿することで新規顧客の獲得を目指します。
イベンド時にホテルの利用を促進するためにクリスマス限定プランや誕生日割引などホテル独自の宿泊プランを提供することで売上の向上につなげます。
新規顧客の獲得と並行して、一度宿泊した宿泊客に再度利用してもらうことも重要な要素です。
宿泊客のチェックアウトの際に割引クーポンを配布したり、宿泊者へメールマガジンやDMなどによる案内を行うことでリピーター客の獲得を目指します。
レストラン収入
ホテルの多くはホテル内にレストランを併設しており、レストランの飲食料金もホテルの貴重な収入源です。
宿泊客による利用はもちろんですが、宿泊客以外の方も利用できるレストラン・バーなどを持っているホテルは、安定して売上を上げることができます。
飲食代が収入源となるだけでなく、ホテル全体のブランド価値を高めることができます。
レストランの利用客を増やすためには良い景色を眺めることのできるラウンジの併設や有名シェフによる料理など他社との差別化を図ることが重要です。
特にホテル各社が力を入れているのが朝食です。
大会場のあるホテルでは郷土料理をバイキング方式で提供したり、大会場のないホテルでもトーストとコーヒーをすべての宿泊客に提供するなどして高い評価を得ることができます。
イベント収入
ホテルには宴会や結婚式などが開催できるブライダル施設を併設している場合があります。
宿泊収入やレストラン収入は少額の売上を少しずつ積み上げていくものですが、イベント収入では一度に大きな売上を上げることができます。
ホテルによっては売上の半分以上をイベント収入が占めることも有り、ホテルにとって貴重な収入源となっています。
これらのホテルは大会場を宴会や結婚式用に貸し出して会場使用料を受け取っています。
また、イベントに飲食を提供することでレストラン収入も得ることができます。
さらにイベントに訪れた人がその後に宿泊やレストランを目的としてホテルに足を運ぶことで他の収益に波及する効果もあります。
ホテルの運営形態
一概にホテルと言ってもホテルの運営形態は様々です。
「誰が経営しているのか」という観点で主に以下の3つに分類されます。
一般的には直営方式とフランチャイズ方式が一般的です。
- 直営方式
- 業務委託方式
- フランチャイズ方式
直営方式とは自社が土地と建物を所有し、開業から運営まですべて一貫して行う方式です。
初期費用が最も高いため、資金力が豊富でないと始めることができません。
したがって、鉄道系や航空系の企業を中心に展開されることが多いです。ホテルの経営形態で最も基本的な形であり、知名度を武器に経営が安定しやすいと言われています。
業務委託方式は土地及び建物の所有者と個人事業主が契約する形態です。
運営は個人事業主もしくはホテルの運営会社が支配人となって行いますが、ホテルの売上の一定割合を土地及び建物の所有者に委託料として支払います。
所有者としては経営する手間が省けるほか、ホテルの運営について知識や経験がなくても一定の売上を上げることができます。
フランチャイズ方式はコンビニの運営形態としてイメージする人が多いかもしれませんが、ホテル業界でも一般的な形態です。
建物の所有者がホテルの支配人として経営を行いますが、有名ホテルの看板を借りて運営を行います。
看板を借りる対価として加盟料と売上の一部をロイヤリティとして本部に支払う必要がありますが、有名ホテルの経営ノウハウを活用して経営を行うことができます。
市場規模・将来性(シンクタンクのレポート)
市場規模
厚生労働省の「衛生行政報告例」によれば、2020年3月末時点での「旅館・ホテル営業」は全国で5万1004施設(前年比+3.0%)となっています。
2018年に旅館業法が改正され、旅館とホテルの種別が統一されましたが、改正前の2018年3月末時点でホテルは1万402施設、旅館は3万8,622施設でした。改正前の傾向としてはホテルの数が増加傾向にあり、旅館は減少していました。
日本生産性本部の「レジャー白書2020」によれば、2019年のホテル業界の市場規模はホテルが1兆6,450億円(前年比+9.4%)、旅館が1兆3,760億円(前年比△1.8%)でした。両者の合計は3兆210億円(前年比+4.0%)となりました。
有価証券報告書ベースでは、主要ホテル会社29社の売上高の合計は2020年時点で1兆3,819億円でした。
矢野経済研究所によれば、ホテル業界の市場規模の推移は以下のとおりです。
(単位:億円)
2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 |
17,523 | 18,802 | 19,215 | 20,291 | 21,468 |
ホテル業界は高度経済成長期からバブル経済期にかけて土地の高騰による業績が堅調に推移していましたが、バブル崩壊とともに業界は縮小傾向に有りました。
その後は微増で推移していましたが、2008年のアメリカ初のサブプライムローン問題やリーマンショックによる世界金融危機によって市場は大幅に落ち込みます。
また、2011年3月の東日本大震災の影響で訪日外国人観光客が減少したことで低迷が続きました。
しかし、2012年以降は政権交代によって経済環境が好転したことや政府主導でLCCの誘致、中国人向けのマルチビザ発行など観光振興策などが実施されていること、また世界全体での海外旅行客が増えていることからインバウンド需要が増加しました。
インバウンド需要は国内の観光需要の減少を補う形となっており、2019年は延べ宿泊者数5憶4200万人のうち19%を外国人が占める結果となりました。
さらに人々の消費が耐久財などのモノ消費から、旅行や観光などのコト消費へと移ったこともホテル業界にとっては追い風となりました。
しかし、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の拡大によって渡航制限が実施され、インバウンド需要が消滅しました。
また、緊急事態宣言発令による外出自粛によって国内の観光需要も激減し、ホテル業界は軒並み業績悪化に見舞われています。
将来性
ホテル業界の今後は短期的には新型コロナウイルス感染症の感染状況が与える影響が大きいと見られています。
目下のところ、新型コロナウイルスの影響で多くのホテルが苦境に立たされており、東京商工リサーチの調査によれば、2020年の宿泊業の倒産は、前年の1.5倍、7年ぶりに100件台に達しています。
帝国データバンクによれば、ホテル事業者の多くが銀行からの緊急融資や政府の公的支援策によって延命している状態であり、いつ倒産しても不思議ではない状況です。
ホテル事業者にとってはいつ収束するかわからないコロナ禍を乗り越えられるかが今後の課題となります。
一方で長期的に見た場合はホテル業界の将来性は明るいと言われています。
東京や大阪などの大都市圏ではホテルは供給過多であると言われていますが、最高級の価格帯にあたる「ラグジュアリーホテル」は全国で不足していて、供給が追いついていません。
また、新型コロナウイルス以前は訪日外国人観光客が増加傾向に有り、日本政府観光局(JNTO)によれば、2019年の訪日外国人旅行者の推計値が18年比2.2%増の3188万2千人で、JNTOが統計を取り始めた1964年以降、最多となりました。
インバウンド需要が増大する中で東京や大阪、京都などの主要観光都市では一時ホテル不足が深刻になり、民泊が乱立するような状況でした。
コロナ禍が収束し、渡航制限が解除され、3,000万人のインバウンド需要が回復すれば、ホテル業界は回復するかもしれません。
さらに観光客向けのビザの発給要件の緩和も再開すれば、今後さらにインバウンド需要が増大するでしょう。
業界の分類
大手
ホテル業界は小規模事業者が乱立しています。
一方で、比較的売上規模の大きい大手の事業者が市場シェアの3分の1程度を占めています。
大手の事業者として西部ホールディングス、東急急行電鉄、オリエンタルランド、東横インなどがあります。
鉄道系の事業者が多いのが特徴です。
中堅専業
鉄道系ではなく、ホテル専業の事業者で比較的売上規模の大きい事業者です。
ホテルオークラ、ニューオータニ、リゾートトラストなどが挙げられます。
最新のトレンド
新型コロナウイルス感染症
ホテルを中心とした観光業にとって新型コロナウイルス感染症の影響は甚大でした。
2020年はじめに新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、5月にピークを迎え、緊急事態宣言が発令されたことからビジネスホテル、シティホテル、リゾートホテルなどあらゆるホテルで需要が激減しました。
特にシティホテルとリゾートホテルは観光需要の消滅によって需要がほぼゼロまで落ち込んでいます。
その後は緩やかな回復基調にあり、GoToキャンペーンが始まった2020年7月以降は急激に宿泊者数が増加しました。
しかし、GoToキャンペーンの停止と感染の再拡大によって再び市場は縮小しました。
現在では宿泊者数は回復基調にありますが、新型コロナウイルス感染症拡大前の半分程度の水準です。
新型コロナウイルス感染症以前は個人消費の拡大や政府の需要喚起策によるインバウンド需要の拡大によってホテル業界は拡大を続けていました。
2019年までは首都圏のホテルの稼働率は80%を超えており、客室が足りない供給不足が続いていました。
しかし、新型コロナウイルスの影響で国内での観光が自粛され、渡航制限が発令されたことでインバウンド需要が消滅すると、ホテル業界を取り巻く環境は一変します。
観光庁によれば、2020年から2021年にかけてビジネス、シティ、リゾート、旅館すべてで稼働率は低下し、2021年1月の稼働率はビジネスホテルで33.7%、シティーホテルで20.7%、リゾートホテルで15.0%などとなり、宿泊施設全体の平均は23.7%でした。
もともと財務体質が脆弱だった小規模事業者を中心に倒産が続いており、帝国データバンクによれば、2020年度の宿泊業者の倒産件数は前年度比66.7%増の125件となり、増加率が過去最高となりました。
また125件のうち、新型コロナウイルスの影響による倒産は72件に上り、全体の57.6%を占めました。
目下のところワクチン接種が拡大していますが、コロナ禍の収束は見えず、国内の観光需要の回復やインバウンド需要は目処が立っていません。
ホテル事業者の多くが銀行からの緊急融資や政府の公的支援策によって延命している状態であり、依然としてホテル業界にとっては厳しい状況が続いています。
各社の取組
新型コロナウイルスによって先行きが不透明な中で各社は生き残りをかけた様々な対策を行っています。
例えば、西武ホールディングスは2021年4月に「プリンス スマート イン 熱海」を開業しました。
「プリンス スマート イン」ではデジタル世代と呼ばれる若者をメインターゲットととして、ICTやAI技術を活用して予約からチェックアウトまでをスマホ一台で行うことができるシームレスなサービスです。
「東急ホテルズ」を展開する東急は、楽天グループと楽天東急プランニング株式会社を設立。
この業務提携によって、「東急ホテルズ」を含む東急グループの各施設で楽天ポイントカードが導入され、顧客は各ホテルで「楽天ポイント」を貯めたり、使ったりすることができます。
「ホテル椿山荘」、「箱根小涌園」などを運営する藤田観光はコロナ対策を徹底するとともにQRコード決済の拡充や、客室デリバリープラン、ワーケーションなど新たなニーズに対応した商品やプランを強化しています。