
専門商社業界の業界研究|就活に役立つ事業構造・将来性・働き方など徹底解説します
総合商社と並んで就活生から根強い人気を誇るのが専門商社です。高い給料水準やチャレンジな仕事でありながら、入社難易度が総合商社程高くないので、一部の学生からは就活の穴場的存在として知られています。専門商社の内定を獲得するのも総合商社と同様に簡単なことではありません。専門商社の伝統的なビジネスや変革されたビジネスモデル、業界の動向などを理解した上で自分の強みや学生時代の経験がどのように活かせるのかを説明します。この記事では専門商社各社の有価証券報告書やシンクタンクのレポートをもとに専門商社の業界研究を行っています。記事を読むだけで業界研究が完成するようになっているので、ぜひ最後まで読んでください。
専門商社業界とは
この章では専門商社業界の
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
業界構造
総合商社との違い
総合商社のビジネスモデルや商流については詳しく知っている学生が多い一方で専門商社については扱っている商材と関連する学部の学生であってもあまり知られていません。
専門商社と総合商社の違いとは何でしょうか?
総合商社は多種多様な分野の「トレーディング」と「事業投資」を行っていますが、総合商社という事業形態は日本独自に発展を遂げたものであり、海外では総合商社のような企業は見当たりません。
一方で専門商社は特定の商品分野に特化して業務を行っています。
厳密には売上高の50%以上が特定の商品によって占めています。
50%以上ですので、一つの分野だけではなく、複数の分野の商品を扱っている専門商社が大半です。
扱っている商材には医薬品、食品、鉄鋼、繊維、機械、化学、エネルギー、金属など多岐に渡ります。
これらの分野で高い専門性や独自のノウハウ、業界内での太いパイプなどを持っている点が強みとなっています。
トレード
商社のビジネスは大きく「トレード」と「事業投資」に分けられます。
トレードは商社の伝統的なビジネスであり、トレーディングとも呼ばれています。
ある分野のメーカーが製品や商品を製造する際に原材料や部品を調達することになりますが、これらは商社が調達を行って、メーカーに納品しています。
つまり、商社が中間業者としてメーカーの製品の輸出入や貿易事務を担っています。
わかりやすく言えば、中間業者として需要と供給をマッチングさせ、買い手と売り手をつなぎ、取引の中で顧客が安心して取引を行えるように物流や情報、金融、保険などを提供して総合的にサポートしています。
このように商社が取引に介在することで取引に付加価値をつけています。
そして、このときにメーカーから受け取る仲介手数料(コミッション)と利ざや(売値と買値の差額)が商社の収益となります。
商社の取引先は国内のみならず、海外にも広がっており、グローバルな企業と言えるでしょう。
また、原材料や部品を供給する取引先とメーカーを仲介するのみならず、メーカーと小売業の仲介も行っており、卸売業のビジネスモデルと似ています。
したがって、広義では商社も卸売業に分類されることがあります。
商社の伝統的なビジネスはトレードであり、高度経済成長期にはトレードを行って商社は発展を遂げましたが、近年ではメーカーが海外進出を行い、独自に仕入れなどを行うようになった結果、商社の提供する中間業者としての価値は低下しました。
バブル崩壊も重なって商社の業績は悪化して新しいビジネスを創出する必要性が生じました。
このような事業環境の中で近年重要性が高まっているのが事業投資です。
事業投資
事業投資とは商社が企業に対してヒト・モノ・カネといった経営資源を投資して、経営をサポートして、企業の事業を育てることで商社の利益を最大化するというビジネスモデルです。
商社は企業の発行する株式の一部を取得し、その企業の株主となります。
また、このときに商社は投資先の企業の業績や将来性、商社とのシナジー効果などを考えて、投資先の選定や出資比率を決定します。
単に企業に投資をして、資金を提供するだけではなく、企業に対して、商社の社員を派遣して、経営に参画したり、商社が持つ経営ノウハウやネットワークを提供することで企業価値の向上を図ります。
事業投資によって得られる利益にはキャピタルゲインや配当金などがあります。
投資した企業の成長し、利益を上げると出資比率に応じて利益を受け取ることができます。
また、投資した企業と商社のグループ会社や他の投資先の企業が協業することでシナジー効果も狙っています。
商社の行っている事業投資は投資銀行の投資業務を混同されがちです。
しかし、投資銀行が事業投資に際して投資先の選定や資金調達のサポートを行うのに対して、商社は投資から投資先の経営への参画など企業買収に関わるすべてのフェーズに関わっています。
また、投資銀行は事業投資に際して手数料を成功報酬として受け取っていますが、商社は出資比率に応じてキャピタルゲイン、配当金などが利益となります。
市場規模・将来性
市場規模
専門商社各社の有価証券報告書によれば、専門商社229社の売上高の合計は2019-2020年で47兆1,462億円となっています。
また、専門商社のトレード部門は卸売業者に分類されることがありますので、各分野の卸売業の市場規模について見ていきましょう。
化学製品
経済産業省の商業動態統計によれば、化学製品卸売業の2020年の販売額は21兆1,760億円(前年比△12.1%)となっています。
電気設備
国土交通省によれば、2020年の国内建設投資は63兆1,600億円(前年比△3.4%)となっています。
このうち政府投資が25兆6,200億円(前年比△3.1%)、民間投資が37兆5,400億円(前年比△7.3%)でした。
民間投資のうち、住宅建築投資が15兆200億円(前年比△8.1%)です。
建築材料
経済産業省の商業動態統計年報によれば、2020年の建築材料卸(大規模卸売業)の販売額は1兆5,325億円(前年比+15.2%)となっています。
食料・飲料
日本経済新聞社の2020年度日本の卸売業調査によれば、2020年の食品卸の売上高の合計は1兆2,261億円(前年比△3.9%)となっています。
繊維品
経済産業省の商業動態統計年報によれば織物用糸や繊維素材などを扱う繊維品卸売業の2019年の年間販売額は7,668億円(前年比△8.0%)となっています。
自動車部品
経済産業省の商業統計調査によれば2020年の「自動車部分品・附属品卸売業」の事業者数は1万1,730、年間商品販売額は8兆3,366億円となっています。
将来性
専門商社の事業内容は大きく分けるとトレードと事業投資です。
高度経済成長期以降に商社不要論が唱えられたようにトレードという事業は廃れつつあります。
グローバル化が進み、多くの製造業が海外に拠点を持つ中で商社の仲介がなくても原材料や部品の調達が容易になっています。
トレードの基本は「安く仕入れて高く売る」という最も基本的な卸売ビジネスですが、このビジネスモデルは今後さらに成り立たなくなると言われています。
したがって、商社のトレードの将来性は高くないと思われます。
一方で事業投資には今後も成長性が期待できそうです。
高度経済成長期以降、事業投資は商社のビジネスの中心となりつつ有ります。
特に成長が期待できる分野は「資源開発」「医療」「半導体」と言われています。
資源開発というと石炭や石油、天然ガスなどの伝統的な資源をイメージするひとが多かもしれませんが、現在では太陽光発電、バイオマス発電、風力発電などの再生可能エネルギーが注目されています。
人々の日々の生活や経済活動にはガスや電気が不可欠であり、ガスや電気の生産には資源が必要になります。
日本は資源に恵まれない国ですので、資源の重要性は高く、海外の採掘利権や再生可能エネルギーに投資している商社には大きな強みがあります。
日本では東日本大震災以降、原発を削減しようとする動きが盛んであり、世界的にも脱炭素化の動きの中で従来の資源開発が批判されています。
ESG投資やSDGsといった環境に配慮した取組をする企業を評価する動きが活発になっており、新しい資源や技術への期待が高まっています。
資源分野に強みが有り、事業投資を行っている専門商社には商機があると言えるでしょう。
日本では高齢化が進んでおり、医療費が国の財政を圧迫する中で予防医療の重要性が増しています。
また、生活習慣病の増加や健康寿命を伸ばす必要性から医療技術の進歩は欠かせません。
生活の中で健康を維持したり、健康寿命を伸ばすために医療分野の市場は拡大すると見られています。
また、日本のみならず海外においても先進国を中心に健康志向が高まっており、医療技術の進歩が求められています。
以前から海外に進出している商社にとっては海外市場の開拓も容易であり、今後医療機器の市場は、拡大の一途をたどることが予想されます。
半導体はスマートフォンやテレビ、カーナビなど日常のあらゆる場面で使われています。
今後半導体の需要が特に高まると予想されているのがEVと自動運転です。
平均的なEVはガソリン車と比較して2倍程度の半導体を必要とすると言われており、高い需要が予想されます。
調査会社IC Insightsによれば、世界の半導体市場は2022年以降、10~15%で成長すると予想しており、市場は急拡大しています。
日本企業は半導体分野で高い技術力とブランドを持っており、日本のみならず海外市場にも開拓の余地があります。
このように成長分野に投資を行っている専門商社の将来性は明るいと言われています。
また、商社の多くが海外に拠点をもっており海外進出を進めています。
少子化や経済成長の鈍化によって日本の市場が縮小するなかでもアジアを中心として世界経済は今後も成長が予測されます。
商社は世界経済の成長をうまく取り込んで成長することで業績を大きく上げることができると期待されます。
業界の分類
総合商社系専門商社
総合商社の子会社である専門商社です。
総合商社が特定の分野のために設立した、もしくは専門商社に事業投資を行って子会社化した場合などがあります。
総合商社は幅広い商材を扱っていますが、総合商社でも扱わないニッチな商材を取り扱っているのが特徴です。
代表的な企業として伊藤忠丸紅鉄鋼、三菱商事エネルギーなどがあります。
メーカー系専門商社
メーカーの子会社もしくは提携会社である専門商社です。
元はメーカーの貿易部門だったのが独立したという経緯をもつ専門商社もあります。
取り扱っている商材は親会社であるメーカーが販売している商品です。
したがって、新規開拓は難しいですが、業績が安定する傾向にあります。
花王カスタマーマーケティング、日産トレーディングなどがあります。
独立系専門商社
親会社を持たない専門商社です。
単独で事業を経営しています。
総合商社系やメーカー系と比較して経営に自由度が高く、様々な商材を扱っています。
代表的な企業として兼松、阪和興業、豊島がなどがあります。
五大専門商社
明確な定義はありませんが、大手の専門商社としてメディパルHD、アルフレッサHD、三菱食品、日鉄物産、スズケンの5社です。
最新のトレンド
専門商社では業界再編が進んでいます。
総合商社に比べて、グローバル化が進んでおらず、国内需要に依存しているビジネスモデルであるため、再編を進めて生き残りをかけています。
また、最近では新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が大きく変化しており、化石燃料依存からの脱却を図るために新規事業への参入も続いています。
具体的な再編の動きは以下のとおりです。
2008年1月 | メディセオパルタックHDが小林製薬の卸子会社コバショウを完全子会社。その後、グローウェルHD、メディカル一光と業務提携。さらに衣料品卸売業を吸収合併することで、純粋持株会社メディパルホールディングスに再編。 |
2011年7月 | 菱食、明治屋商事、サンエス、フードサービスネットワークの食品4社が経営統合し、三菱食品が誕生。 |
2013年1月 | 旭食品、カナカン、丸大堀内の3社が経営統合し、トモシアホールディングスが誕生。 |
2015年4月 | 半導体商社のマクニカと富士エレクトロニクスが統合し、マクニカ・富士エレ HDが誕生。 |
2019年4月 | UKC HDがバイテックHDを吸収合併し、レスターHDに商号を変更。 |
2021年4月 | 長瀬産業が情報通信、エネルギーインフラを扱う「情報通信・エネルギー事業室」とバイオテクノロジーを扱う「NAGASEバイオテック室」を新設。 |
2021年4月 | 電機商社の八洲電機が組織再編によってプラントエンジニアリングビジネスユニット(BU)を3本部体制へ移行。鉄鋼事業、石油事業、鉄・非鉄・ガス・化学を扱うセグメントに分割。 |
2021年6月 |
医療機器商社のメディアスホールディングスが企業再編によって循環器領域の4社を統合。 |
分野によって明暗が分かれる
エネルギー関連の専門商社は原油価格の動向に左右されます。
2009年頃には原油価格が高騰したほか、アメリカ初のサブプライムローン問題やリーマンショックによる金融危機によって各社の業績は悪化しました。
しかし、2011年には東日本大震災の復興需要があり、2012年には政権交代による景気拡大によって機械や鉄鋼関連の専門商社が好調に推移しました。
2016年以降は食品、日用品、化粧品、医薬品などの専門商社は堅調に推移した一方で資源価格が低下したことから鉄鋼、エネルギー関連の専門商社の業績が悪化しました。
2017年以降は世界経済が堅調に推移したことで電子・半導体、機械分野の専門商社の業績が好調に推移しました。