
【懲戒処分と公表基準】民間企業や地方・国家公務員を比較して解説
懲戒処分が下された際、その内容が公表されるかどうかについては気になるところです。実際は民間企業や地方公務員・国家公務員という立場の違いによって、大きく状況が変わってきます。この記事ではそれぞれの公表基準について解説するとともに、それに伴う名誉毀損等の問題についても見ていきます。
懲戒処分の公表基準は公務員の方が民間企業より厳格
懲戒処分とは、組織における服務規程や職務上の義務に反する行いをした場合に、本人の反省を促すために制裁や懲罰が課せられることをいいます。懲戒処分を公表することで、再発防止効果が期待できます。
この記事では、懲戒処分の公表基準について解説していきます。
懲戒処分の公開基準は、公務員と民間ではどちらが厳しいかについては、公務員の方が厳格であると言えます。
公務員の懲戒処分の公表基準は非常に厳しい
公務員の懲戒処分の公開基準は非常に厳しいです。
公務員は国民から徴収した大切な税金によって給料が払われていますので、懲戒処分の適用や公開についてはこと細かに規定されているのは当然と言えます。
国家公務員の懲戒処分は国家公務員法第82条で、地方公務員は地方公務員法第29条において細かく規定されており、また公開基準についても人事院によってしっかり規定化されています。
民間企業では懲戒処分の公表は判断が難しい
民間企業の懲戒処分の公表は、どこまで公開するかの判断がとても難しいです。
民間企業の場合、就業規則等で懲戒処分の適用や公開についての規定がされるわけですが、特に公開に関しては、企業の自己判断・自己責任によるものが大きいからです。
もちろん、懲戒処分の公開は再発防止や企業秩序の回復が期待されるため、一定の必要性はあります。
ですが、どこまで公開するかは企業側の判断に任せられている部分が多いため、労使間のトラブルに発展しないよう、うまく判断することが求められます。
懲戒処分の公表内容も公務員と民間企業では異なる
懲戒処分の公表内容も、公務員と民間企業では異なります。
先ほど解説したように、公務員の場合は法律や人事院規定ではっきり決まっていますが、民間企業の場合は就業規則に規定されており、企業内の判断によるところが大きいからです。
そもそも就業規則は企業によってそれぞれ違いますので、統一された基準がありません。
公務員の場合は年齢や性別まで公表される
公務員の懲戒処分の公開基準について、神奈川県を例に見ていきましょう。
神奈川県の公表内容
- 事案の内容
- 該当職員の所属または局部名
- 該当職員の職名
- 該当職員の年齢および性別
- 処分の内容日
以上の公表内容が規定されています。
さらに、懲戒免職または懲戒免職以外で社会的影響が大きい場合には、氏名も公表するとしています。
民間企業では社内公表に限界がある
民間企業での社内公表は、社内の判断によるとは言うものの、無制約に公表していいとは言えません。懲戒処分を受けた者に対する、名誉等を侵害するものとして不法行為となるリスクがあります。
判例においても懲戒処分の公開が適法になるのは、当該公表がその具体的状況下において社会的にみて相当と認められる場合に限る、とされています。
また、その懲戒処分が無効であった場合、公表の行為自体が名誉毀損等の不法行為であると言われてしまうことがあるのです。
公務員の懲戒処分の公表基準ははっきりしている
公務員の懲戒処分の公表基準ははっきり決められています。
地方公務員法、国家公務員法によって規定されており、その規定に従って公表されます。
地方公務員の場合
地方公務員の場合、地方によって規定は若干異なります。先ほど神奈川県の公表基準を解説しましたが、公開する内容はほとんど同じです。
- 事案の内容
- 該当職員の所属または局部名
- 該当職員の職名
- 該当職員の年齢および性別
- 処分の内容
ただし、懲戒処分のどの段階において公表するかに多少の違いがあります。懲戒処分の種類には、軽度のものから「戒告」「譴責」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨退職」「諭旨解雇」「懲戒解雇」があります。
他にも、懲戒処分が下されたら即時公開する自治体もあれば、ある段階より重い懲戒処分以降を公開する、という違いはあります。
いずれにせよ、基準がこと細かに規定されているため、公開基準ははっきりしていると言えます。
国家公務員の場合
国家公務員の場合を、人事院の公表指針から引用します。
- 公表対象
次のいずれかに該当する懲戒処分は、公表するものとする。
(1) 職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分
(2) 職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分 - 公表内容
事案の概要、処分量定及び処分年月日並びに所属、役職段階等の被処分者の属性に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するものとする。 - 公表の例外
被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等1及び2によることが適当でないと認められる場合は、1及び2にかかわらず、公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないものとする。
【引用】人事院「懲戒処分の公表指針について」
上記のような規定になっています。
地方公務員の規定より曖昧ではありますが、状況によってその公表基準をもとに判断するということです。
民間企業の懲戒処分の公表は企業の自己責任
民間企業の懲戒処分の公表については、公務員の場合のように統一規定のようなものがないため、企業の自己責任ということになります。
ですが、企業の自己責任だからといって無制限に公表することは許されません。
処分を受けた人の名誉等を考慮しつつ、一般的に相当と思われる範囲内での公表を行うことが必要です。
名誉毀損等の不法行為が問題となる場合も
懲戒処分の公表によって、名誉毀損等の不法行為が問題となる場合があります。
懲戒処分を受けるような事例の再発を防ぐために、社内で懲戒処分を受けた者の氏名や個人を特定するような情報を公表することは、絶大な効果があると思われます。いわゆる「見せしめ」です。
しかし、氏名や個人を特定する情報を公開することは「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する」ことになり、刑法上の名誉毀損という法律違反にあたるとされることがあります。
懲戒処分の公開について、個人を特定する情報を公開してしまうのは、対象者と企業との間のトラブルの原因になり、ともすれば企業が名誉毀損で訴えられる可能性もあります。
公表が許容される情報とは
上記で解説したような労務トラブルを避けるためには、個人が特定されない程度の情報にとどめることが賢明です。
具体的には、事案の概要や処分の内容、処分年月日だけにするという方法があります。
公表には個人情報への配慮が重要になる
これまで解説したように、民間企業での懲戒処分の公表には、個人情報への配慮が重要です。
社内での再発防止を最優先に考えると、個人を特定できる情報を公開することが一番有効と思われますが、トラブルとなるのは本望ではないので注意が必要です。
まとめ
懲戒処分の公開基準について解説しました。
懲戒処分の公開については、公務員には基準となる規定がありますが、民間企業には統一された規定がないため、個々の企業の自己判断、自己責任となります。
民間企業の公開については、個人情報の公開をどこまで行うかというのが最大のポイントです。
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約90%の質問に回答が寄せられています。
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