
【同一労働同一賃金の退職金】裁判の事例などから詳しく解説
政府が推し進める「働き方改革」の中でも注目されているのが「同一労働同一賃金」というものです。正社員と非正規社員での格差を無くそうと言ったものですが、はたしてこれらはどのような内容なのでしょうか。また、退職金の扱いはどうなるのでしょうか。今回は「同一労働同一賃金と退職金」について解説します。
同一労働同一賃金と退職金
同じ労働をしている人には同じくらいの賃金を支払いましょうというのが「同一労働同一賃金」という考え方です。
政府が推進している「働き方改革」において、大切な柱として紹介されています。
同一労働同一賃金とは
先にも述べたように同じ労働に対して、雇用形態にかかわらず同等の賃金を払いましょうという考え方です。
日本においては正社員と呼ばれる正規雇用の社員と、契約社員やパート・アルバイトなどの非正規社員と呼ばれる社員の2種類に分かれています。現在、正規社員のほうが時給・福利厚生の待遇などが格段に良いことで、同じ仕事をしている非正規の社員にとっては不公平な状態が続いています。
この状態を改善する方法として「同一労働同一賃金」という考え方が生まれてきました。
同一労働同一賃金の場合の退職金
同一労働同一賃金という場合、時給や福利厚生面だけでなく、退職金の有無についてもポイントとなっています。
2019年2月に東京メトロの子会社「メトロコマース」で非正規社員として働いていた女性社員4名が起こした裁判について、同一労働同一賃金を理由として退職金を求めたことに判決が出されました。
様々な点で非正規社員との間に不公平な状況が生まれていましたが、退職金については一部(4分の1程度)を支給するという内容です。
同一労働同一賃金という考えに立てば、退職金についても正社員とほぼ同程度の金額が出されなけでばならないのかもしれません。
完全に同一の金額は出なかったものの、この2019年2月の判決によって「非正規でも退職金を出す必要がある」という認識が広がりました。
働き方改革による同一労働同一賃金と退職金
これまで正社員と非正規社員の間に合った様々な格差ですが、これらは「時給」「福利厚生」「労働賃金」という3つの点において明確になっています。
この不平等な状態を、働き方改革によって2020年4月からしっかり法律によって規制していこうという流れになっています。
働き方改革の同一労働同一賃金の考え方
働き方改革における同一労働同一賃金では、基本給、賞与、各種手当において、不合理な差があってはならないという考え方が基本です。
同じだけの能力を持つ正規社員と非正規社員が行う同一業務であれば、同程度の賃金を支払わなければならないとされています。しかし、正社員のほうが能力が高い、あるいは特別な講習を受けているなどの正当な理由があるならば、賃金に差があっても仕方がないとなっています。
働き方改革での退職金の考え方
働き方改革において、2018年12月改訂部分において退職金に関する考え方が追加され、退職金についても不合理な待遇差は禁止するという方向性が打ち出されています。
しかし、どのようなケースで「不合理だ」と判断されるかについては、明確に記載されていません。今後不合理だと思われるケースで裁判になった時、司法がどう判断するかにゆだねられるところが大きいです。
同一労働同一賃金と退職金の問題
現在の同一労働同一賃金及び退職金支給の有無に関する判断については、基本的概念と現在の企業の状況が異なっている場合があります。
これについて、基本給・職務内容という2つのポイントから紹介します。
同一労働同一賃金の基本給の問題
実際の業務と、業務可能な範囲が異なる場合はどうなのでしょうか。
就業契約でA・B及びCという業務範囲で契約しているが実際にはA・Bの業務しかやっていない人と、A・Bという業務範囲で契約してA・Bの業務をこなしている人では「業務範囲が異なるので基本給の差があっても仕方ない」と判断が下りかねない、というポイントです。
同一労働同一賃金であるはずなのに、実際の業務に違いはなくとも、「やるかもしれない業務」の違いがあるだけで給与に差が出てしまう可能性があります。
同一労働同一賃金での職務内容の問題
どのような業務を担当するかという職務内容については、企業や上司の裁量にゆだねられるところが多いポイントです。
どんなに「正社員と変わらない業務をやっていきたい」と思っていても、「女性は結婚して辞めるから男性社員と同じ業務範囲を任せない」という方針を恥じることなく実行している企業もいます。
「結婚するかもしれない」「やめるかもしれない」といった、今後起こるかもしれないがまだ起こっていないことを理由に、「女性だけ」の職務範囲が限定されやすい可能性があります。
同一労働同一賃金と退職金に関するガイドライン
2018年12月28日に公布された「同一労働同一賃金ガイドライン」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)ですが、退職金部分の不透明さについて、既に問題視され始めています。
ガイドラインの退職金部分の不透明さ
「事業主が原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある。」と記載されたガイドラインですが、退職金についてはこの指針に原則となる考え方が示されていません。
実際の施行は大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月からの施行ですが、ガイドラインが出された時点から、ビジネス法務を専門とする法律事務所などから問題視されています。
ガイドラインの不合理の考え方と退職金
同一労働同一賃金ガイドラインの中には「不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と記載されていますが、不合理か合理的かという線引きについての明確な記載がありません。
このように法律で線引きがあいまいなケースでは、今後退職金支給の有無を争って裁判が起こった際の判決が判例となり、線引きされることになります。
退職金の支給については具体的な「不合理」の考え方が示されていないため、この判例が待たれることになります。
まとめ
働き方改革において同一労働同一賃金ガイドラインとして示された非正規雇用者に対する「退職金」の指針ですが、このガイドラインだけでは「すべての非正規社員に正社員と同等の退職金を支給するのが妥当か」という点は明確になっていません。
しかし2019年2月に出された「メトロコマース」の判例は、非正規社員も退職金をもらう権利があるのだということが示された、大きな判例だったといっても過言ではありません。
この判決を受けて、今後の社会の変化にも期待したいところです。
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約90%の質問に回答が寄せられています。
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