
【就活生必見】精密機器の業界研究|事業構造・将来性・働き方など徹底解説
精密機器メーカーはものづくり業界の中でも日本企業が大きなシェアを誇っている業界であり、特に理系の学生から根強い就活人気を誇ります。内定者の多くを都内の有名私立大学や旧帝国大学の学生が占める難関の就職先です。精密機器メーカーの就活を成功させるためには精密機器業界について正しく理解することが必要です。精密機器メーカーは様々な分野の機械を開発・製造しており、全体像を理解するのが難しい業界です。この記事では複雑な精密機器業界を各社の有価証券報告書や公的機関のレポートなどをもとにわかりやすく解説し、就活生のみなさんが業界研究を完成させられるように作成しています。ぜひしっかりと理解して、就活対策を万全にしてください。
精密機器業界とは
この章では、精密機器業界の次の内容について解説していきます。
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンド
それではさっそくみていきましょう。
業界構造
精密機器の製造・販売
精密機器業界は精密機器の製造・販売を行っていますが、精密機器には明確な定義は定まっていません。一般的には微細な部品で構成され、制作誤差がきわめて小さい高度かつ精度の高い機械です。電子制御やソフトウェア制御によって作動しています。高度化された電子機器なども、精密機器の一種です。
しかし、工業製品のほとんどが精度の高い機械であり、電子制御によって動作することから時計、カメラ、ミシン、オルゴール、電子計算機から光学機器や事務機器の一部、医療用機器、電子計測器等も精密機器と呼ばれています。
経済産業省の「工業統計表」によれば、精密機器は「業務用機械器具製造業」に分類されます。「業務用機械器具製造業」には非常に多種多様な機械が分類されていますが、この記事では最も代表的な以下の機械を精密機器とします。
- 工作機械
- 電子部品
- 事務機器
- 計測機器
精密機器のビジネスモデルは大きく分けてBtoCビジネスとBtoBビジネスに分けられます。BtoCビジネスでは一般の消費者が利用するカメラや時計などの商品を取り扱っています。
一方でBtoBビジネスでは企業や研究所が利用する医療用機器、計測機器、検査機器などの商品を取り扱います。顧客としては官公庁、大学などの研究機関、その他の研究開発期間、検査機関、医療機関、食品・医薬品・電気・電子・機械・素材・輸送機・建設などのメーカー、その他ライフサイエンス・石油・環境・医療関連の企業を指します。
各産業における精密機器の活用事例としては以下のようなものがあります。
鉄鋼 | ・元素分析機器による品質管理 |
輸送機 | ・走行中をシミュレートできる疲労試験機で耐久性を証明 ・CFRPなどの新しい材料の強度証明 ・フライトコントロールシステムによる安全飛行の実現 |
石油化学 | ・分離分析機器により純度の高い石油を精製 |
医薬品 | ・成分分析機器によるスピーディーで高品質な新薬開発の実現 ・細胞培養システムや遺伝子検査機器によるバイオ医薬品の開発 |
半導体・電機 | ・微細な加工が可能な露光装置で高性能なICを製造 ・非破壊検査機器による品質チェックや不良解析で不具合を防止 |
上記の通り、精密機器は様々な産業の発展を支えており、その産業から生まれた技術が人々の生活を支えています。
事務機器のビジネスモデル
精密機器の代表的なものが事務機器です。一概に事務機器といっても広く、一般的なシュレッダーやタイムレコーダーをはじめ、小さなものでは電卓や電子辞書、広義には、金銭登録機(電子式やPOSシステム対応式など)や複写機、プリンターやファックス機能を持つ複合機など大型の事務機も含まれます。
OA(オフィスオートメーション)機器とも呼ばれたこれらの機器は、機械技術と電子技術が融合して発展してきたものであり、特にコピー機・複合機市場では、日本の精密機器メーカーの評価が高く、世界でも市場シェアも占有しています。近年は電子黒板などのデジタル機器が相次ぎ登場しているほか、タイムレコーダーを活用した勤怠管理システムを手掛けるケースも増えています。
従来は製品の単品販売が主でしたが、オフィスのシステム全体をまとめてデザイン・提案するソリューション(解決支援)型ビジネスが広がり、売れ筋の製品や販売チャネルが変化しつつあります。
これらの事務機器のビジネスは販売会社・リース会社への販売収入、コピーカウンター料金、トナーやインク等の消耗品の販売、メーカーメンテナンスによる収入になります。
計測機器のビジネスモデル
計測機器や分析機器とは物質の組成、性質、構造、状態などを定性的、定量的に測定するための機械器具や装置であり、「顕微鏡」、「分光計」、「表面分析装置」、「磁気共鳴装置」、「質量分析計」「X線分析装置」などがあります。
大学や企業の研究所などの学術研究をはじめ、産業、生活環境、地球環境、医療など利用分野は着実に拡大しており、それに伴い多種多様な分析機器が開発されています。
分析機器は製造業だけでなく、バイオ・医療、エネルギー・環境など広範囲の産業分野で活用されています。主な販売先は民間企業のほか、大学や国家研究機関などの研究施設などがあります。
市場規模・将来性
市場規模
業界動向リサーチによれば、2019年-2020年の精密機器業界の市場規模(主要対象企業52社の売上高の合計)は5兆4,134億円となっています。次に精密機器に分類される各機械産業の市場規模について確認しましょう。
日本工作機械工業会によれば、2017年の工作機械受注額は前年比31.6%増の1兆6,455億5,400万円と10年ぶりに過去最高を更新しました。2018年は2017年比10.3%増の1兆8,157億7,100万円とさらに過去最高を更新しています。2019年の受注額(確報値)は前年比32.3%減の1兆2,299億円で3年ぶりの減少となりました。
内需が34.3%減の4,922億円、外需が30.9%減の7,367億円となりました。国内の自動車関連業界からの受注が同43.7%減の1,398億円となるなど、自動車関連の低迷が鮮明でした。米中貿易摩擦で製造業全体の投資意欲が減退したことも響いたようです。
日本分析機器工業会がホームページに掲載している住化分析センターのレポート(2020年)によると、日本の分析機器市場規模は2,162億円に達しています。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術戦略研究センターが2018年に公表したレポート「計測分析機器分野の技術戦略策定に向けて」によれば、2013年の世界の計測分析機器市場は約4兆円で、2001年から年平均約5%で成長しています。計測分析機器市場シェアのトップは米国で、2位を日本とドイツが争っており、日本のシェアは10%程度です。
日本は電子顕微鏡やX線分析装置で強い競争力を持つ一方、最も市場規模が大きく成長が予想されるライフサイエンス機器では国際競争力が弱いことが課題です。研究開発面でも大規模な研究投資や政策的支援の不足、開発を担う大学や企業への支援も足りないなど、課題は山積しています。
ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)によると、2020年通年の事務機器の世界出荷額は1兆3,954億円でした。この年からビジネスインクジェットプリンターと大判インクジェットプリンターを追加したため、前年比は未公表です。前年と同じ分類での総額は1兆2,441億円で前年比20.2%の大幅減となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大による各国・地域の外出自粛やテレワークの普及で、需要構造が大きく変容しつつあります。年前半から後半にかけて減少幅が小さくなっており、需要の回復傾向を示しました。国内での現金離れを反映して、「ECR/POS(金銭登録機)」の国内向け出荷額が253億円(前年比43.8%減)と大幅に減少しました。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術戦略研究センターが2018年に公表したレポート「計測分析機器分野の技術戦略策定に向けて」によれば、2013年の世界の計測分析機器市場は約4兆円で、2001年から年平均約5%で成長しています。
計測分析機器市場シェアのトップは米国で、2位を日本とドイツが争っており、日本のシェアは10%程度です。
将来性
精密機器は様々な分類がありますが、BtoCビジネスの将来性は危惧されています。例えば、カメラです。カメラは以前は日本のメーカーが世界の市場を独占していましたが、一般消費者の間ではカメラの需要がスマホに置き換わっており、市場は急速に縮小しました。日本メーカーの生産するカメラは高機能であることで知られていましたが、スマートフォンの多機能化によって代替可能となり、SNSの普及と相まって2010年代には市場は縮小し始め、現在でもその傾向は止まりません。
また、BtoBビジネスであってもOA機器の市場は大幅に縮小しています。従来はデータや情報を紙に保存する文化が根強くありましたが、インターネット及びPCの普及によって、ビジネス文章がメール中心となったほか、スマートフォンの普及、クラウドサービス等のネットワーク技術が高度化したことでデータや情報はデジタル化され、ネットやクラウドを通じて、やり取りされるようになりました。この流れに伴いOA機器の市場は縮小トレンドにああります。
しかし、精密機器の市場は医療、食品・医薬品・電気・電子・機械・素材・建設・ライフサイエンス・石油・環境など様々な業界と密接に関連しており、関わる市場は拡大傾向にあります。精密機器の業界そのものがなくなることはないでしょう。
また、日本はものづくりや技術の高さが海外から評価されており、海外市場へ進出する企業は増えています。例えば、事務機器ビジネスでは海外売上比率が圧倒的に高く、ペーパーレスの進行していない新興国のマーケットが拡大しています。
業界の分類
BtoC向け大手
明確な定義はありませんが、主にBtoC向けの精密機器ビジネスを行っている企業の中でも大手メーカーとしてオリンパス、富士フィルム、キャノン、テルモ、ニコン、HOYA、ニプロが知られています。
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BtoB向け大手
こちらも明確な定義はありませんが、主にBtoB向けの精密機器ビジネスを行っている企業の中でも大手メーカーとして島津製作所、デンソー、キーエンスなどがあります。
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最新のトレンド
BtoCビジネスの市場は縮小
精密機器業界の市場の推移について見てみましょう。市場規模は2000年代半ばまで拡大していましたが、2009年に米国初のサブプライムローン問題やリーマンショックの影響を受けて、2009年以降は縮小しました。しかし、2012年の政権交代は大規模な金融緩和や輸出の拡大によって、市場は再び拡大傾向にあります。
精密機器業界のなかでもBtoCビジネスは縮小傾向にあるようです。例えば、時計は長期に渡る景気後退や消費不況、スマートフォンの普及によって縮小傾向にあります。市場はカシオ、シチズン、セイコーの大手3社の寡占状態にありますが、各社の業績はさらに下火となっています。
また、カメラは2013年以降、一貫して市場が縮小トレンドにあります。これはSNSや高画質なスマートフォンの普及によるところが大きいです。カメラ映像機器工業会によると、2020年のデジタルカメラの総出荷台数は、前年比41.6%減の1,521万台となりました。出荷台数は2010年に1億2,000万台を突破してピークを迎えましたが、2019年には8分の1ほどまで減少しています。
特に、初心者向けのコンパクトカメラの影響が大きく、スマホにシェアを奪われているのが現状です。写真撮影の定番がカメラからスマホへ完全に移行してしまった、いわゆるパラダイム転換が起きたことがカメラ市場縮小の大きな要因と言えます。2020年以降は新型コロナウイルス感染症によって消費が低迷したことで出荷台数は前年の70%以上減となっています。
海外進出と課題
精密機器各社は国内市場の縮小を背景として海外進出を進めています。もともと日本の精密機器メーカーはカメラやOA機器などのBtoCビジネスにおいて圧倒的な技術力を持ち、世界の市場を席巻していましたが、現在ではBtoBの精密機器に強みを持っています。
精密機器業界は海外の売上高比率が高いので、世界経済の動向に大きく左右されます。2008年の米国初のサブプライムローン問題やリーマンショックによる世界金融危機によって精密機器各社の輸出額は60%以上減少しましたが、経済成長の著しい新興国市場へ進出することによって危機を乗り越えました。
2011年には東日本大震災が発生し、国内の精密機器の製造拠点が被害を受けたことで、翌年の2012年には出荷額が10%以上減少しましたが、基本的には2009年以降は回復基調にあります。
一方で、精密機器業界においては販売体制に課題があると言われています。各社は商社と代理店契約を締結するなどして、海外進出を進めていますが、各地域の一般消費者のニーズを掴むことが困難であるという問題があります。
新型コロナウイルス感染症の影響
新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったのが時計業界及び測定機器です。一般社団法人日本時計協会によれば、2020年の完成品総出荷数は、ウォッチは前年比34%減の4,400万個となりました。これは金額ベースで前年比32%減の1,936億円です。クロックは同18%減の800万個で金額は同13%減の170億円と大きなマイナスとなりました。
なお、ウオッチの機種別の構成比は、数量ベースで水晶アナログが全体の66%、水晶デジタルが30%、機械式が5%だが、金額ベースでは水晶アナログが68%、水晶デジタルが15%、機械式が17%となっており、機械式の製品単価が高いことがわかります。
一方、精密測定器(光学測定器を含む)の生産については、日本精密測定機器工業会の生産販売統計によると、2018年は月次ベースで前年を上回っていたものの、2019年5月から前年を下回っています。2019年は、米中経済摩擦による不透明感やBrexitなどが、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大によって世界経済の成長率が押し下げられたことが影響していると考えられます。