
学習塾業界の業界研究|就活に役立つ事業構造・将来性・働き方など徹底解説します
教師など教育産業に関心のある学生が多く志望するのが学習塾です。学生時代に家庭教師や塾講師として働いていた学生も多く、学生時代の経験を活かせる業界として一部の学生から人気を集めています。この記事では学習塾について各社の有価証券報告書やシンクタンク、政府関係機関のレポートなどを参考にして、学習塾のビジネスモデルや業界トレンド、各社の動向を解説しています。記事を読むだけで業界研究が仕上がるようになっていますので、ぜひ最後まで読んで学習塾の業界研究を完成させましょう。
学習塾業界とは
この章では学習塾業の
- 業界構造
- 将来性
- 業界分類
- 最新トレンドについて
解説していきます。
業界構造(Tier1・2や商流やメインビジネス(稼ぎ方)など)
補習塾・進学塾・予備校の運営
学習塾とは小学生・中学生・高校生を対象として、放課後に有料で教科の補習や進学準備の学習指導を手がける民間の教育施設を指します。
学習塾はその目的や顧客ターゲットによって補習塾、進学塾、予備校に分類されます。
補習塾とは学校のカリキュラムに合わせて学習をサポートする学習塾です。
学校の授業に付いていくために主に学校で習った内容を復習します。
学校の成績を上げることを目的としていますので、学校で使用している教科書や参考書を使用して、復習や定期試験の対策を行います。
指導形式には個別指導と集団指導がありますが、生徒一人一人の習熟度に合わせるために個別指導形式が多いです。
進学塾は中学受験や高校受験、大学受験など受験のために必要な指導に特化した学習塾を指します。
受験のために偏差値を上げることを目的としており、受験の日程や志望校の難易度から逆算した年間のカリキュラムに沿って授業が進行します。
志望校や学力別にクラスを編成する塾も多く、学校の授業よりもスピード感があり、明確な目標を持って学習が進みます。
進学塾は受験のための学習塾ですので、在籍する生徒も成績優秀な人が多いです。
規模の大きい学習塾では幅広いレベルの生徒を受け入れていますが、生徒によってレベルが異なるので、入塾の段階でテストを実施し、学力別にクラスを設けています。
予備校は大学進学を目指す生徒を対象に大学受験に特化した教育を手掛ける教育施設です。
大学受験の進学に実績のある講師が講義を担当し、志望校の出題傾向に特化した内容の解説を行います。
進学塾との区別が難しい点がありますが、入学試験に不合格となった「浪人生」など高校を卒業した生徒を受け入れている教育施設を予備校、現役の小・中・高校生のみを対象に指導している教育施設を学習塾と区分しています。
他の業界のビジネスモデルと異なり、すべての学習塾に共通することはサービスの決定権者、契約者とサービスの利用者が異なる点です。
生徒の父親や母親がサービスを選別し、契約しますが、実際に授業を受けるのは生徒になります。
したがって、生徒と同時に保護者に対しても配慮する「バランス感覚」が不可欠です。
会員制ビジネス
学習塾は会員制ビジネスであり、サブスクリプションサービスと似ています。
サブスクリプションサービスとは一定の金額を支払うことで商品やサービスを一定期間利用することができる形式のビジネスモデルであり、動画配信サービスや新聞などが主流です。
学習塾では会員制ですので、保護者が一定期間に授業を受けるというサービスを契約すると生徒は授業というサービスを受けることになります。
生徒に対する授業に満足してもらって、月謝という形でサービス料金を受け取ります。
このシンプルなビジネスモデルはほとんどすべての学習塾に共通するものです。
会員制であるため、収益の安定性は極めて高く、また原価もかからないので、利益率も高いビジネスモデルです。
また、サブスクリプションと同様に現金ビジネスです。
学習塾のビジネスモデルはBtoCビジネスであり、BtoBビジネスのように掛取引は行われず、月謝は現金で支払われます。
現金ビジネスは売掛金の貸し倒れリスクがなく、財務体質が安定します。
労働集約型産業
学習塾は他のサービス業と同様に事業活動を行う上で売上高に対する人件費の割合が高い労働集約型産業です。
学習塾の講師は実績や生徒の獲得に直結しますので、極めて重要な経営資源ですので、各社とも人気講師の獲得、育成、定着を重要な経営課題としていますが、人件費の削減にも注力しています。
学習塾には個別指導形式と集団指導形式があり、進学塾や予備校は集団指導、補習塾は個別指導という傾向があります。
また、近年では生徒個々人の水準に合った学習指導ニーズの高まりから、進学塾や予備校にも個別指導が普及し始めています。
しかし、個別指導形式を採用するためには個別の教室と講師の数を確保する必要があり、人件費が大きな負担となりやすいです。
したがって、講師は学生などを雇って、アルバイトとして人件費を変動費にするなど費用削減への取組みが進んでいます。
市場規模・将来性(シンクタンクのレポートなど)
市場規模
株式会社矢野経済研究所によれば、学習塾の市場規模は以下のように推移しています。
(単位:億円)
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年(予測) |
9,690 | 9,720 | 9,720 | 9,240 | 9,690 |
少子化によって顧客ターゲットは減少していますので、市場は縮小傾向にあると思われがちですが、実際にはほぼ横ばいで推移しています。
確かに少子化によって学齢人口は減少していますが、2013年4月に教育資金の贈与税の免除枠が設定されたことも有り、子ども一人ひとりあたりの教育費は増加しています。
現在では大学に行くのが当たり前という風潮が有あることやゆとり教育が終わり学習内容のレベルが向上していることも一因です。
2009年のアメリカのサブプライムローン問題やリーマンショックに伴う金融危機によって一時的に教育投資額は減少しましたが、その後は緩やかに拡大してきています。
また、市場は寡占化傾向にあります。
これは子供1人あたりの学習塾費が増加傾向にあるなか、補習から受験指導まで幅広いニーズに対応可能で、難関校への豊富な合格実績も有する大手事業者のシェアが高まってきていることが要因です。
また、事業者は学齢人口の減少が見込まれる中、低学年より生徒を取り込み、大学進学までの長期 にわたって囲い込む視点に移行しています。
2020年度の学習塾・予備校市場規模は9,240億円(前年度比△4.9%)となりました。
市場規模は微増傾向にありましたが、2020年度は微減となりました。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって緊急事態宣言が発令された地域を中心に休塾措置が取られたほか、休塾した校舎については授業料の返金や割引が実施されたことが影響しました。
さらに顧客に対する広告宣伝活動の自粛や抑制、学校の夏休み期間短縮による夏期講座数の減少などのマイナス影響を大きく受けました。
緊急事態宣言が解除されて、広告宣伝活動が再開し、生徒の通塾が再開してからは学習の遅れや学力の低下に対する危機感・不安感などを背景に、生徒数は大きく回復に転じましたが、通年では春先の減収分を補完するまでには至りませんでした。
将来性
短期的には新型コロナウイルス感染症の影響を受けることが予想されます。
矢野経済研究所の試算によれば、2021年の市場規模は9,690億円と回復傾向にあると予想されますが、感染状況次第では変動する可能性があります。
新型コロナウイルスが日常化するなかで学習塾は感染防止対策のノウハウを身につけていることや通塾に関する制限が緩和されていることから多くの学習塾事業者で業績が回復すると見られています。
この傾向は進学塾や予備校で顕著ですが、補習塾は比較的緊急性が低いため、需要の回復に遅れがデています。
また、2021年9月現在でも新型コロナウイルスの再拡大が危惧されており、感染拡大対策として休塾措置が実施された場合には市場規模が下方修正される可能性は十分にあります。
長期的な将来性については少子化が課題となりそうです。学習塾の業績は顧客ターゲット層である学齢人口に比例するため、少子化によるパイの縮小は業界の規模に大きな影響を与え、生徒の獲得競争を加速させると考えられます。
内閣府の調査によれば、出生数は減少傾向にあります。
1947~49年の第1次ベビーブーム期には約270万人、1971~1974年の、第2次ベビーブーム期の1973年には約210万人を記録しましたが、1975年に200万人を割り込んで以降は減少傾向にあり、2019年には出生数は86万5,234人となり、90万人を割り込みました。
出生数の減少に伴って小学生、中学生、高校生の生徒数が減少しています。
2015年時点で2,200万人であった生徒数は2030年には1,700万人、2040年には1,500万人、2050年には1,300万、2060年には1,100万人と減少すると予想されています。
生徒数の減少は顕著であり、学習塾業界の生徒獲得競争は、今後さらなる激化が予想されます。
このように学習塾の顧客ターゲット層は少なくなりますので、「学習塾は衰退産業である」と語られることがありますが、それほど単純な話でもあります。
世帯あたりの教育支出額は増加しています。
また、中高一貫校の人気が上がっており、中学受験を目指す生徒も増えています。
これによってこれまでメインのターゲットではなかった小学校低学年層が通塾するようになっています。
また、2020年4月より次期学習指導要領が順次適用されたことで小学校高学年を対象に英語を中心とした外国語活動必修化やプログラミング必修化による教育ニーズの変化も生徒獲得の追い風となっています。
一方で2021年度から大学センター試験に代わって大学入学共通テストが実施される予定であり、学習範囲が拡大するため、対応できない学習塾事業者は淘汰され、事業者間の競争力格差が広がる可能性が高いとみられています。
業界の分類
大手学習塾
学習塾は寡占化が進んでいます。
ベネッセグループが市場規模の約4分の1を占めており、学研ホールディングス、栄光ホールディングス、ナガセなどが続きます。
中堅学習塾
売上規模はそこまで大きくものの、売上上位を占める事業者として早稲田アカデミー、リソー教育、Z会、明光ネットワークジャパン、市進ホールディングスなどがあります。
最新のトレンド
業界再編
学齢人口の減少が見込まれる中、低学年より生徒を取り込み、大学進学までの長期にわたって囲い込む必要性が生じており、テクノロジーへの対応、新カリキュラムへの対応等、各社では指導経験が不足する領域の拡充を急いでいます。
また、不採算部門、周辺部門の整理が行われており、これらは業界の再編を後押ししています。
業界再編の動きとしては以下のようなものがあります。
2010年5月 | 代々木ゼミナールは、中学受験塾「SAPIX小学部」を手がけるジーニアスエデュケーションを買収し、難関大学受験を見据えて一貫した指導体制を構築 |
2010年10月 | 明光ネットワークジャパンは、保育所や学童保育を運営するサクセスアカデミーと提携し、生徒の早期囲い込みを実現 |
2014年1月 | ベネッセHDは、eラーニング教材「すらら」を提供するすららネットへの出資によりサービス基盤を拡充し、生徒の囲い込みを実現 |
2015年9月 | 増進会出版社は、栄光ホールディングスが得意とする対面教育を通信教育に組み合わせることにより教育サービスの強化を図る |
2011年9月 | 河合塾グループから、毎日コムネットが賃貸管理する学生マンションへの入居を推奨することで大学生向け市場を開拓 |
2012年3月 | 市進HDは、地元の中学・高校受験で高い実績を持つ有力塾を傘下に置き茨城県での展開を加速 |
2016年8月 | 高宮学園は、オンライン英会話を手掛けるベストティーチャーを買収し、英語4技能対策に向けて学習コンテンツの拡充を図る |
2017年6月 |
増進会出版社は、難関私立大学に多くの合格者を輩出するMY FRONTIERを買収 |
オンライン授業やAIの発展
新型コロナウイルス感染症の拡大によって緊急事態宣言が発令され、外出自粛が推奨されたことから従来の通塾に因る学習指導は大きく制限されました。
学習塾の中には休塾対応する事業者もありましたが、返金や割引による業績の悪化を危惧して、学習塾・予備校事業者の多くは、オンライン授業の導入や、映像授業、デジタル教材などを無償提供して学習サービスの継続に努めました。
他の多くの業界と同様に学習塾においても新型コロナウイルス感染症を契機としてデジタル技術やオンライン授業の導入が進展しました。
オンライン授業が普及したことでこれまで首都圏の生徒を対象に事業を展開していた学習塾事業者は顧客ターゲットを地方や海外在住の生徒に広げており、オンライン授業を提供するサービスを新たに立ち上げる動きもみられています。
一方で、緊急事態宣言が解除されて、通塾が再開して以降は対面による受講を希望する生徒が圧倒的に多く、学力向上や学習内容の定着といった効果や、生徒のモチベーションの維持・向上、オンライン授業に適した指導方法の確立といった課題も表面化しています。
オンライン授業と併せてデジタル教材の普及も進展しています。
AI(人工知能)技術を活用して、生徒個々の学力や学習進度、理解度などに合わせた、より効果的かつ効率的な学習指導サービスの提供の推進が活発化しており、関連サービスを導入する事業者が急増していいます。
学習塾全体の課題として実績と信頼のある講師の獲得がありますが、デジタル教材の普及によって人的リソースに依存しない学習サービスの確立といった面で、AI等を搭載したデジタル教材を活用した学習指導サービスの開発・提供は今後においても拡大することが予測されます。