
文化庁の業界研究|就活に役立つ事業構造・将来性・働き方など徹底解説します
文化庁は日本の文化に関わる施策を総合的に推進する省庁であり、近年京都に本庁を移したことで注目を集めています。中央官庁のなかでも先進的な取組で知られており、従来国家公務員を志望していなかった学生からも幅広く人気を集めています。この記事では文化庁の採用ホームページや文化庁が発行している白書、関係法令などをもとに文化庁の役割や文化庁職員の仕事内容について解説しています。また、文化庁に入庁するためのステップについても解説していますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
文化庁とは
文化庁は音楽、演劇、メディア芸術といった 文化芸術活動、書画や寺社仏閣などの文化財、宗教、日本語、さらには食文化や茶道といった生活文化なども含め、多様な分野に及ぶ日本の文化に関わる施策を総合的に推進する文部科学省の外局です。
文部科学省の外局の中でも歴史のある庁であり、1968年に当時の文部省の内部部局であった文化局と外局の文化財保護委員会を統合し、文部省外局として文化庁が発足しました。
文部科学省設置法第一八条に文化庁の任務が以下のように規定されています。
文化庁は、文化の振興その他の文化に関する施策の総合的な推進並びに国際文化交流の振興及び博物館による社会教育の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする。
文化庁では文部科学省設置法に示された任務を達成するため文化の振興に関し企画を立て、援助や助言を与え、国語の改良普及、著作権の登録、国際文化交流の振興、文化財の保護、芸術創作活動の振興などに関する事務を所掌しています。
現在、中央省庁としては初となる京都への移転に向けた取組を進めており、京都と東京の2の拠点で日本の文化芸術の継承、発展、創造に向かって政策の推進に取り組んでいます。
文化庁の役割
国語の改良普及
文化芸術基本法第一九条「日本語教育の充実」では日本語の改良普及に関する政府の役割については以下のように規定しています。
国は,外国人の我が国の文化芸術に関する理解に資するよう,外国人に対する日本語教育の充実を図るため,日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備,日本語教育に関する教材の開発,日本語教育を行う機関における教育の水準の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。
また文部科学省設置法第四条八三号では文部科学省の所掌事務について「国語の改善及びその普及に関すること。」と規定があります。
文部科学省において文化行政は文化庁が担うものであり、文化庁は国語問題研究協議会や国語施策懇談会を運営し、日本語の調査研究を行っています。
国際文化交流
文化芸術基本法第一五条「国際交流等の推進」で国際文化交流について
「国は、文化芸術に係る国際的な交流及び貢献の推進を図ることにより、我が国及び世界の文化芸術活動の発展を図るため、文化芸術活動を行う者の国際的な交流及び芸術祭その他の文化芸術に係る国際的な催しの開催又はこれへの参加、海外における我が国の文化芸術の現地の言語による展示、公開その他の普及への支援、海外の文化遺産の修復に関する協力、海外における著作権に関する制度の整備に関する協力、文化芸術に関する国際機関等の業務に従事する人材の養成及び派遣その他の必要な施策を講ずるものとする。」と規定しています。
文化庁は上記の任務を果たすために文化庁国際文化フォーラムの開催や文化庁文化交流使制度の運用、国際交流年事業、国際芸術交流支援事業などを実施しています。
また、現代日本文学の優れた翻訳家を発掘・育成することを目的とした翻訳コンクール、翻訳ワークショップ、シンポジウム、フォーラム等などを開催しています。
芸術祭
文化芸術基本法第8条「芸術の振興」には
「国は、文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踊その他の芸術(次条に規定するメディア芸術を除く。)の振興を図るため、これらの芸術の公演、展示等への支援、これらの芸術の制作等に係る物品の保存への支援、これらの芸術に係る知識及び技能の継承への支援、芸術祭等の開催その他の必要な施策を講ずるものとする。」と規定しています。
文化庁では文化庁芸術祭、芸術選奨、国民文化祭、全国高等学校総合文化祭、文化庁メディア芸術祭、文化庁映画賞および文化庁映画週間といった芸術祭や顕彰を主催しています。
文化庁の仕事内容
博物館全体の振興
科学館や動物園、水族館も含めた博物館全体の振興を文化庁が担当しています。
例えば博物館については学校と連携した教育活動、障害者の文化芸術活動の振興、インバウンド観光 への対応などのこれまで他省庁で行われていた取組まで目を向け、より高い視点からの行政を推進しています。
法制度の見直し
文化庁が振興を担当する博物館が抱える課題を解決するのはそれぞれの館であり、その設置者である地方公 団体や法人です。
しかし、そのような「現場」の試行錯誤を後押しし、全力でその使命に邁進できる環境を整備するのが文化庁の役割です。
博物館に関する法制度の見直しもその一つです。
一定の基準を満たした博物館が都道府県による「登録」を受けられる仕組みができてから約 70 年が経ち、そのメリット、基準の要件が現状と乖離しているという指摘があり、文化庁が見直しを進めています。
文化財の保護
文化財は日本の長い歴史の中で生まれ、発展し、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産です。
文化庁は文化財保護法に基づき重要なものを国宝、重要文化財、史跡、名勝、天然記念物等として指定、選定、登録し、現状変更や輸出などについて一定の制限を課す一方、保存修理や防災施設の設置、史跡等の公有化等に対し補助を行うことにより文化財の保存を図っています。
また、文化財の公開施設の整備に対し補助を行ったり、展覧会などによる文化財の鑑賞機会の拡大を図ったりするなど文化財の活用のための措置も講じています。
最新のトレンド
文化庁の京都移転
2016年3月に政府は全閣僚でつくる「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長=安倍晋三首相)の会合で、中央省庁などの地方移転に関する基本方針を決定しました。
基本方針では自治体から誘致案が示された7省庁のうち、文化庁を数年中に京都府へ全面的に移転すると明記しました。
そして、2018年に改正された文部科学省設置法の附帯決議において、「文化庁が京 都への本格移転に向け、予定しているその効果及び影響の検証結果については、文化庁の京 都移転が、政府関係機関の地方への移転の先行事例であることを踏まえ、適宜国会へ報告す ること」とされました。
もともと政府機関の地方移転の狙いは東京一極集中の是正です。
政府は民間企業に対しても東京に集中している本社機能を地方に移転するよう要請していましたが、「民間に本社機能の一部移転をお願いしている。
その政府が『何も動きません』では説得力がない」という声が政府内外から上がっていました。
今回の文化庁移転は政府機関の地方分散及び民間企業の本社移転の先駆けともなる事例です。
文化庁では京都に派遣する職員について先行移転している同庁地域文化創生本部で通常の業務をさせ、東京とのウェブ会議をはじめ、業務に支障が出ないか課題を洗い出す方針です。
ただし、2022年度中に予定していた京都への本格移転については、移転先の工事が大幅に遅れ、完成が22年夏から12月下旬ごろにずれ込む見通しになっています。
また、中央省庁とはいえ、文化庁の職員は200名程度であり、文化庁の移転だけでは政府機能の地方分散及び東京一極集中の是正にはつながりません。
文化庁移転を契機としてどこまで京都の都市力の向上に結びつけられるかが今後の課題となります。
文化プログラムの展開
文化庁では文化の祭典でもある2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会について日本文化を世界に発信・地域の文化資源を掘り起こし・地方創生や観光振興の実現にもつなげる絶好の機会と見ています。
東京2020に際して、文化庁では、「日本博」を始めとした文化プログラムを全国各地において展開し、日本の多様な文化資源や観光資源の魅力を国内外へ積極的に発信しています。
「日本博」は、東京2020大会を契機とする文化プログラムの中核的事業として、関係府省庁や地方公共団体、文化施設、民間団体等の関係者の総力を結集し、縄文時代から現代まで続く日本の美を各分野にわたって体系的に展開していく大型プロジェクトです。
国内外への戦略的プロモーションを推進し、インバウンド需要回復や国内観光需要の一層の喚起、「文化芸術立国」の基盤強化、文化による「国家ブランディング」 の強化等を図ります。
しかし、新型コロナウイルスの影響によって東京オリンピックの規模が縮小され、海外からの観戦客の受け入れが中止されると「日本博」を中心とした文化プログラムも急激に縮小しました。
費やした費用や人的資源に対して、どの程度効果があったのかについては検証が必要となるでしょう。
アニメーション、マンガなどのメディア芸術の振興
アニメーション、マンガ、ゲームなどのメディア芸術は広く国民に親しまれるとともに海外でも高く評価され、これまで日本の代名詞だった自動車や家電、電子機器などに肩を並べて、アニメや漫画コンテンツの需要が高まっています。
政府は内閣府に知的財産戦略推進事務局を設置し、アニメやマンガ、映像、ファッションなど、日本が強みとするコンテンツ産業を「クール・ジャパン」として発信しています。
文化庁においてもメディア芸術の一層の振興を図るため、創作活動に対する支援、普及、人材育成などに重点を置いた様々な取組を行っています。
例えば、文化庁が「文化庁メディア芸術祭」を開催し、「アート」、「エンターテインメント」、「アニメーション」、「マンガ」の 4 部門について、優れた作品を顕彰しています。
2020年9月には文化庁メディア芸術祭第24回を開催し、世界103の国と地域から3,693作品の応募がありました。
ただし、文化庁をはじめとする日本政府の国内コンテンツの国外への文化事業の輸出事業は小規模にとどまっており、アニメや音楽など、日本が誇る素晴らしいコンテンツを作るクリエイターとその技術を活かしきれていないという批判があります。
文化庁の年収
文化庁及び文部科学省単体での職員の年収は非公表ですが、人事局が公表している「国家公務員の業務状況等の報告」を基にすると、国家総合職採用の職員は1年目で300~400万円程度、30代で600~700万円程度、40代から50代で1000万円を超えてくるイメージです。
また、国家一般職については国家公務員25万3132人のうち、一般職にあたる行政職は14万2236人であり、給与は全職員の平均給与は41万6203円で、行政職に限ると40万8868円となっています。
文化庁で求められる人物像・スキル
文化庁はどのような人物を求めているのでしょうか?詳しく解説していきます。
採用実績大学
文部科学省の採用ホームページによれば、「文部科学省では、人物本位で採用を行っております。そのため、評価において出身大学等が有利・不利にはたらくことはありません。」としています。
ただし、内定者によれば、東京大学などの旧帝大出身者が比較的多いようです。
また、政府が女性活躍推進社会を掲げていることもあり、女性の場合は私大であっても比較的採用されやすい傾向にあるようです。
志向性やスキル
文化庁を所管する文部科学省の採用ホームページによれば、文部科学省は以下のスキルをもった学生を求めています。
- 「人」と「知恵」を基盤とした未来づくりへの信念と責任感
- コミュニケーションとコーディネート力
- 人を思う温かさ、困難に負けないタフな心
文化庁のES・面接対策
最後に文化庁の就活対策を解説していきます。
ここが最も重要なところなので、ぜひ参考にしてみてください。
ES対策
志望動機
文化庁を所管する文部科学省の内定者の志望動機を参考にしてみましょう。
小学校から大学まで野球に打ち込んでおり、その経験からスポーツ行政に興味を持ちました。
そして、国という立場から様々な形でスポーツを振興したいと思い、スポーツ行政を所管している文部科学省を志望しました。
学生時代を地方で過ごす中で、教育機会や環境の格差に関心をもったのがきっかけでした。
その中で、誰もが自分らしい選択をし、生涯にわたって学び挑戦し続けることが可能な社会の制度づくりに携わりたいと思い、文部科学省に入省しました。
上記のように文部科学省が所管している特定の分野に対する関心から志望動機を作成しても問題はないようです。
ただし、文部科学省の内定者で文化分野に関心があって志望する学生は決して多くないようです。
したがって、文化庁への入庁意欲を前面に出しすぎると、「希望通りに配属されなかった場合はどうするのか?」という質問が予想されますので、「自分が余り興味関心のなかった分野に配属になったとしても、自分の可能性を試す機会だと思って、是非積極的にチャレンジします」と答えるのがよいでしょう。
政策提言
文部科学省のエントリーシートには
「政策提言(日本社会が直面する課題を1つ選び、その課題の分析と国が取るべき解決策を具体的に提案してください。)」という設問があります。
文字数は800文字以内ですので、大きなボリュームです。
設問は「日本社会が直面する課題」ですが、文部科学省のエントリーシートですので、教育や文化、科学技術、スポーツなどに関連する社会問題に対する政策提言をすることになります。
関心のある社会問題を決めたら、文部科学省の説明会に参加して、職員に質問したり、文部科学省の白書や採用パンフレットを読んで、課題に対する自分なりの回答を整理しましょう。
面接対策
政策討論
文化庁を所管する文部科学省の選考では学生による政策討論の時間があります。
文部科学省が所掌する業務や教育・文化・科学・スポーツに関する社会問題について議論を行います。
政策討論では積極性、論理的思考能力及び説明力、グループの合意形成能力などが採点されます。
政策討論は練習するほど上手になるものです。
予備校などのグループディスカッションの模擬練習に参加して、練習しておきましょう。
原課面接
文部科学省の面接では人事面談のほかに原課面接があります。
原課面接とは現場の職員と政策についてディスカッションをしたり、政策について逆質問をする面接です。
面接においても論理的思考能力や頭の回転の速さが採点されます。
希望は聞かれるようですが、文部科学省の所掌事務のうち教育・科学・文化・スポーツのどれの担当の職員が面接官になるかわかりません。
したがって、文化庁所掌事務だけではなく、教育、科学技術、スポーツなど文部科学省が扱うすべての分野について浅く広く知識を習得しておきましょう。
よくある質問
文化庁に配属を希望しているのですが、希望は通りますか?
文化庁を所管する文部科学省では「行政官として一流のジェネラリスト」の育成を目指しています。
そして、そのためには幅広く職務を経験する必要があると考えています。
したがって、採用後は一つの分野にとどまることなく、教育、科学技術、文化、スポーツと幅広く様々な分野を経験しながら広い視野を養うことが、人事ローテーションの基本です。
人事配属に関する希望を申告する機会もありますが、人事異動は、本人の能力や適性、人材育成上の必要性なども総合的に考慮して決定されますので、必ず文化庁に配属されるとは限りません。
ただし、文部科学省の担当分野である、教育、科学技術、文化、スポーツはそれぞれ密接に関わりあっていますので、自分の希望する分野を直接担当する部署ではなくとも、関連する業務を行う可能性は高いと言えます。
過去の採用データを見ると総合職事務系は法律職の採用が多いように思いますが、人数の枠などがあるのでしょうか?
文部科学省の採用ホームページによれば、総合職事務系では、行政、政治・国際、法律、経済、人間科学、工学(うち建築分野に限る)、法務、教養の試験区分の合格者から採用する予定です。
あくまでも「採用選考は人物本位で行っており、試験区分において人数の枠などは一切設けておりませんので、試験区分による有利不利はありません。」としていますが、実際には法律区分の学生の採用が多いようです。
法律区分採用の学生は行政官として最低限の知識が備わっているため採用上有利になるのかもしれません。
海外での勤務はありますか?
文化庁を所管する文部科学省では海外の日本国大使館や国際機関での勤務の可能性があります。
日本国大使館での勤務とは外務省に出向し、書記官や参事官として大使館や領事官に勤務し、日本の施策の発信などに携わります。
しかし、教育や科学技術分野が中心となるため文化庁の所掌事務を行う機会は少ないようです。
また、国際機関とはOECD(経済協力開発機構)、UNESCO(国連教育・科学・文化機関)、IAEA(国際原子力機関)、WIPO(世界知的所有権機関)など、文部科学省の所管する分野に関連の深い国際機関を指します。
経済や科学技術、教育などが中心ですが、UNESCOでは文化庁所管の業務に携わる可能性があります。
まとめ
文化庁に入庁すると日本の文化保全を初めとして、日本の歴史や文化を守るという使命の達成に携わることができます。
文部科学省が入口となりますが、将来的な文化庁入庁も可能です。
まずは第一歩として文部科学省の入省に向けて、本記事の内容を参考にしてください。
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